「入場無料」のその先に…2万6000人超えの来場者に石川遼が思うこと
◇国内男子◇三井住友VISA太平洋マスターズ 最終日(13日)◇太平洋クラブ御殿場コース(静岡)◇7262yd(パー70)
懐かしい光景だったかもしれない。午後からの雨にも負けず、最終日に会場を訪れた7334人、そして4日間延べ2万6702人の来場者に優勝者の石川遼は心から感謝した。「本当にモチベーションになった。気持ちも変わる。パッティングの集中力も上がった」。3年ぶり、ツアー通算18勝目を飾ったのは「入場無料」で大ギャラリーを集めた大会。千両役者たるゆえんを見せつける結果になった。
第50回の記念大会に際して行われた異例の施策に、石川は連日「『見に行きたい』と思ってもらえるように頑張りたい」と口にしてきた。しかし優勝会見で明かしたのは、期間中は胸に秘め続けた思い。「『見に行きたい』その前には、『お金を払ってでも』というのが自分の中にはあった」という。
今大会の来場者数はコロナ禍が始まった2020年以降で最高、2万人を超えたのも3年半ぶりだったが、大会史上最多とはいかなかった。御殿場が史上最も来場者を飲み込んだ一週間は石川が優勝した2010年。土日両日で1万人以上を集め、3万1451人を記録した。18歳で賞金王になった09年も3万人超えを達成。もちろん有料で、だった。
当時は“遼くんブーム”の真っただ中。石川はその後、5年間米国へ。4日間で2万7148人を集めた11年にアマチュア優勝を達成した同学年の松山英樹も早々に主戦場を海の向こうに移し、男子ツアーの集客は苦戦が続いている。
「潜在的には興味がある人がいるが、会場まで来てもらうためには“きっかけ”が必要」と石川は言う。時流を変える“きっかけづくり”として、伝統大会の入場無料の看板は間違いなく大きかった。ただ、コンテンツそのものが優良でなければ人は集まらない。「大会としての魅力もあると思うけれど、そこには『生で見たい』と思われる選手が何人いるか。1人の選手が何人を連れてこられるのかということが、昔から気になっている」と、あくまで主役のプレーヤーの頑張りが欠かせないと訴えた。
「急に“バーン”とギャラリーが増えるのは難しいと思う」。それぞれの地道な取り組みが引き続き必要だが、ここ最近の変化も感じている。「マイナビABCチャンピオンシップで、蝉川泰果選手にもたくさんのギャラリーがついていた。中島啓太選手も今年デビューして、彼を見てみたいというファンがたくさんいる。河本力選手もいる。(多くの選手が)キャラが立っているでしょう(笑)。向上心、ハングリー精神がある人が増えた。見ていて面白いはずです。“バチバチ感”というか、きょうの最終組はみんな苦しんだけど、優勝を目指して(今大会だけでなく)さらに先を見ているのがファンの皆さんにも伝わっていると思う」
若くして世界を目指すと誓った20代前半の選手たちが、上の世代にも刺激をぶつけてくる構図が頼もしい。「この雰囲気や関係性が続けば、レベルも上がって、見に行きたいと思ってもらえると確信しています」。石川は自信を持って言った。(静岡県御殿場市/桂川洋一)