就職もよぎった冬 蝉川泰果が“雑草魂”でつかんだ歴史的快挙
◇国内男子◇日本オープンゴルフ選手権競技 最終日(23日)◇三甲GCジャパンコース(兵庫)◇7178yd(パー70)
最後まで攻める姿勢を貫いた。アマチュアの蝉川泰果(東北福祉大)は2打のリードを持って迎えた18番でも“魅せる”ことを考えていた。
「乗せれば勝ちかなと思ったけど、あれだけのギャラリーが見ている。ピタッといきたい」。これまでのゴルフ人生最大の局面でもブレない。残り167ydから8Iで果敢に左奥のピンを攻め込んだボールは奥のバンカーまでこぼれたが、長いパーパットをねじ込んでガッツポーズ。「ああいったパーパットが入るということは、自分は何か持っているのかな」と笑った。
6打差スタートから出だし2連続バーディ。圧勝ムードは折り返しの9番で吹き飛んだ。セカンドを奥の深いラフに外し、左下がりのライだったアプローチで60度のウェッジが2回もボールの下をくぐった。56度に持ち替え、転がして何とかかき出したがトリプルボギー。同じ最終組の比嘉一貴がバーディを奪い、最大8打あったリードは一気に4打まで縮まった。
「ヤバいな」と冷や汗をかきつつ、思考回路は一貫していた。「勝ちたいよりも、ギャラリーにいいプレーを見せたい」。続く10番もラフから左手前のバンカーに落としながら、あと少しでチップインというセーブ。「あの一打が大きかった」とうなずいた通り、崩れることなく18ホールを走り切った。
6月の下部ABEMAツアー「ジャパンクリエイトチャレンジ in 福岡雷山」、9月「パナソニックオープン」、そして10月はこの「日本オープン」。下部、レギュラーと出場したツアー3試合連続優勝と離れ業を演じた形だが、これまではもがき苦しむ時間の方が長かった。
大学1年時に「日本学生」、「日本アマ」、「朝日杯」といずれもトップと1打差で最終日を迎えながら崩れてフィニッシュ。自分の甘さを痛感した。2学年上の金谷拓実や同学年の中島啓太のように結果を残せず、昨年の冬ごろには就職も考えたほどだった。「円形脱毛症にもなりました」。だからこそ、ライバルであり、憧れでもあった2人でも成し遂げられなかった史上初アマでのツアー2勝、95年ぶりとなる日本オープンアマ制覇が誇らしい。「雑草魂でここまで来た。今まで松山(英樹)さんでも(アマチュアで)2勝はしていない。ビックリしている部分が強いけど、そういった部分では“自分やるな”って」と笑わせた。
休む間もなく、25日から最後の学生競技となる常陸宮杯(石川・片山津GC)に出場。プロ転向のタイミングは刻一刻と近づいている。「4大メジャーを制覇することが僕の夢です」。歴史的快挙も、21歳が描く壮大なキャリアの序章に過ぎない。(兵庫県三木市/亀山泰宏)