2020年 VISA太平洋マスターズ

「オレは勝てないんじゃないか…」香妻陣一朗 スーパーイーグルで初勝利

2020/11/15 17:20
真っ赤なチャンピオンブレザーを羽織る香妻陣一朗。初めての瞬間…

◇国内男子◇三井住友VISA太平洋マスターズ 最終日(15日)◇太平洋クラブ御殿場コース(静岡)◇7262yd(パー70)

待ちに待った初タイトルはスーパーショットで勝ち取った。首位に1打ビハインドで迎えた最終18番(パー5)。「イーグルを獲るしかない」と3Wで予定通りフェアウェイをキープした香妻陣一朗は第2打に230ydを残した。5Iでのショットは左からの風にも煽られ、グリーンの傾斜を駆け上がってピンそば20㎝に止まった。

「まさかタップインできるところにあるとは…」。クラブハウスリーダーになって1つ後ろ、最終組のプレーをテレビモニターで確認。スコア提出所を出ると、歓喜の瞬間が訪れた。秋吉翔太出水田大二郎ら地元九州の先輩たちからウォーターシャワーの手荒い祝福。「上がり4ホールくらいはプレッシャーがかかって胃が痛くて。これが水のシャワー。めちゃ気持ち良かった」。それでも、あふれ出る涙は洗い流せなかった。

宮崎・日章学園高3年時の2012年11月、女子ツアー1勝の姉・香妻琴乃の背中を追うようにプロの世界に飛び込んだ。16年に下部ツアーで優勝するなどレギュラーツアーに定着したが、18年にはシード落ちも経験した。「プロに入りたてのときは早く勝てるんじゃないかと思っていた。でも最近は、オレは勝てないんじゃないかって…。シード落ちしたときには、ゴルフはもういいかなとも思った」

最終18番の2打目をピンそばにつけてガッツポーズを作った香妻陣一朗

先を見据えて岐路に立たされたとき、揺らぐ気持ちを律したのは「勝てるまでやめられない」という意地だった。165㎝と小柄で「アプローチとパターでスコアを作る」というプレースタイルながら、ショットの球筋を変える試行錯誤もした。

首位と1打差を追ったこの日は、4番までの3バーディでつくった貯金を、6番のダブルボギー、7番(パー3)で吐き出す慌ただしい展開。10mを沈めた続く8番のバーディパットで「気持ちが楽になった」という。4日間でもっとも激しく、冷たく吹いたバックナインの風にめげず「68」。26歳にしてツアー参戦8年目での初タイトルは、忍耐強く戦い抜いた証しだった。

今年度は優勝者に来年1月の米ツアー「ソニーオープンinハワイ」への出場資格も付与された。香妻はラウンド中、同組でプレーした片山晋呉金谷拓実がともにプレーした海外メジャー「マスターズ」の思い出話に耳を傾けながら、自らは想像を巡らせていた。「いつかはもちろんマスターズに出たい。向こう(米国)でもプレーしたい」。サイズの少し大きい、真紅のチャンピオンブレザーに誓った。(静岡県御殿場市/桂川洋一)

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