2019年 全米オープン

絶望と新たな喜びと ウッドランドの父の日の物語

2019/06/18 07:14
ウッドランドは優勝を見守った父と抱擁を交わした(代表撮影・宮本卓)

◇メジャー第3戦◇全米オープン 最終日(16日)◇ペブルビーチGL(カリフォルニア州)◇7075yd(パー71)

ゲーリー・ウッドランドが最初にバスケットボールを教わったのは父・ダンさんだった。野球をはじめ、小さい頃からあらゆるスポーツの教え手が父だった。「彼が唯一、僕のコーチでなかったのがゴルフだったんだ」。スコアで初めて父を負かしたのが13歳のときだったと記憶している。ただし、バスケットではその何年か後まで敵わなかったという。

たぐいまれな運動能力を持ったウッドランドは、高校卒業後、地元ウォッシュバーン大にバスケットの特待生として入学。1年生ながら活躍したが、のちにNBA選手となるカーク・ハインリッヒという選手とマッチアップするなどして、ゴルフへの復帰を考えたという。その道を家族は後押し。「父さんは決して僕に何かを強要することはなかった」。母リンさんも何をやるにも、息子の決断を尊重してくれた。

「どんなスポーツでも絶対に成功してみせる」。ゴルフへの専念は実を結び、月日は流れ、2016年にギャビー夫人と結婚した。翌17年に今度は自分が父になったが、その前後は悲しみに暮れていた。妊娠中、生まれてくるはずだった双子のひとりを流産。同年6月、10週も早く生まれてきたジャクソンくんも、わずか1360gだった。

ウッドランドはその後、家族で転戦生活を送り、妻をサポートした。夫婦は精神的にも難しい時間を乗り越え、ちょうど1週間後に2歳になる愛息はいま元気に成長した。そして今週、両親がペブルビーチに駆け付けた一方で、妻子がいなかったのには理由がある。

「今朝起きて息子と妻とはテレビ電話をしたよ。二人がいなかったのは残念だったけど、家に帰るのが楽しみ。何か月か先に、双子の女の子が生まれるんだ。特別な意味がある。僕は妻とずっと寄り添って、息子も来週2歳になる。最高だよ。来週の誕生日パーティが本当に待ち遠しい」

6月の第3日曜日。「全米オープン」でメジャー初制覇を遂げたきょうは、父の日だった。「父さんがいなければ、僕への接し方が違っていれば、僕はここにいなかった。息子に対して僕も父さんのようにありたい」。我が家で帰りを待つ愛息、生まれてくる姉妹。そして天国にいる息子へのパパの誓いだ。(カリフォルニア州ペブルビーチ/桂川洋一)

■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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