2019年 マスターズ

すべてのショットを映像で 「マスターズ」のデジタルサービスがスゴイ

2019/04/12 12:49
無人テレビカメラと弾道計測器がティグラウンドの後方に。マスターズはデジタルサービスをさらに充実させた

◇メジャー第1戦◇マスターズ 初日(11日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)7475yd(パー72)

ゴルフ観戦の一番の難点は、フィールドで繰り広げられているプレーのすべてを目に収められないことに違いない。ほかの多くの球技と異なり、選手の数だけボールがあり、それらが同時に、あちこちで動いている。「マスターズ」は今年、そんなファンの悩みをテクノロジーで解消した。オーガスタナショナルGCでの全ショットをカメラに収録し、公式ホームページとアプリで配信するサービスを開始した。

開幕前日、チェアマンのフレッド・リドリー氏は自信満々に語った。「私たちは今週、新しいマスターズのデジタルプラットフォームを明らかにする。ゴルフにおいて初めて、すべての選手のすべてのラウンドにおけるすべてのショットを映像に収める」

22カ国87選手のプレーとファンをオンラインでつなぎ、ラウンド終了後には3分間のハイライト映像も提供。PGAツアーの試合と同じように、各選手のボールが止まった地点を二次元的に記録し、アニメーションで展開していたトラッキングサービスをさらに発展させた。罰打などのトラブルを除けば、ほぼ全ショットがユーザーに提供され、数分程度のタイムラグはあったが、操作性も滑らかと言えた。

各選手のボール位置のデータを収集するトラッキングシステム

大会スポンサーのひとつであるIBMのAI(人工知能)、“ワトソン”が各選手のハイライトを作り上げるシステムは、すでに2017年にテニスの「全米オープン」でお披露目されていた。マスターズも前年大会で数人の選手を対象に実施。ファンの歓声や、テレビ中継のアナウンサーの声のトーン、選手のガッツポーズなどのリアクションを判断して、映像を作り上げる。

フルサービスの開始までに裏でベータテストを進行させた。約3年間に及んだ開発試験の最後の場は、前週の「オーガスタナショナル女子アマチュア」でもあった。2017年に新設された巨大プレスビルには、報道機関向けに約350席のデスクを設けたメディアセンターとは別に、数十人のスタッフでにぎわう大会のデジタルメディアチームの部屋があり、万全の態勢を整えてきた。

世界一のゴルフショーはアナログとも絶妙に同居

コースの外でデジタル化が進むマスターズだが、会場内のリーダーボードはいまだに手動だ

ただし、マスターズは現在も、来場者の携帯電話の持ち込みを禁じる例外的なスポーツイベントでもある。リドリー氏は「近い将来に変えるべきことではないと信じている。未来のチェアマンにもそう言うつもりはないけれど」とし、ゴルフトーナメントの原風景の雰囲気を重んじた厳格なルールは、まだしばらく継続されそうだ。そのため、プラチナチケットを握りしめて現地に来たパトロンは、この革新的なサービスを“リアルタイム”で受けることができない。選手の順位を知らせるリーダーボードはいまだにボランティアスタッフの手作業に委ねられている。

それでも、オーガスタナショナルGCに足を運びたいファンは増え続けている。転売チケットの額は1万ドル(4日間通し/約111万円)に達し、初日は例年通り、午前8時15分のオナラリースタートまでに鈴なりの列ができた。最先端のデジタルと、アナログの伝統とが同居するマスターズ。現地に足を運べないファンへのサービスを最大化すれば、今度は再び来場者の満足度をさらに上げる術を考える。互いを刺激し合うような関係が、世界一のゴルフショーをいっそう前進させている。(ジョージア州オーガスタ/桂川洋一)

■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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