2016年 マスターズ

若き海外勢のグリーンジャケットへと続く道

2016/04/07 12:28
開幕前日のマスターズ委員会メンバーに声を掛けられる松山英樹。中央は通訳のボブ・ターナー氏

ジャック・ニクラスは1986年の自身の快挙をこう回想した。「18番グリーンから降りて、(息子の)ジャッキーと抱き合ったことがまるで昨日のことのようだ。息子がバッグを担ぎ、あの瞬間を共有できたことは、たぶん自分のゴルフ人生において最も記念すべきことだと思う」。ニクラスが46歳で6度目のグリーンジャケットを獲得してから、今年でちょうど30年になる。

当時のニクラスの偉業が“陽”ならば、“陰”となった存在の1人がセベ・バレステロス(スペイン)だ。あの日、15番を迎えた時点で単独首位に立っていたバレステロスは、2組前で回るニクラスが15番でイーグルを奪い、16番で立て続けにバーディを仕留めた地鳴りのような大歓声を15番フェアウェイで聞いていた。そして、そこからの2打目を池へと打ち込んで敗れ去った。

同組で回ったトム・カイトは言う。「10cmはダフっていた。偉大な選手が打った試合中のショットとしては、今まで見た中で最悪のものだった…」。

当時、バレステロスが来日した際にマネージャーをしていたのは、現在、松山英樹のマネージャーを務めるボブ・ターナー氏だ。「あの試合は、セベが勝つべく試合を勝たなかった初めての試合だった」と、ターナー氏は振り返る。すでに2度、グリーンジャケットを獲得していたバレステロスですら、自分ではなく、米国のスーパースターの優勝を期待するパトロンたちの空気を感じ取り、動揺し、そして深く傷付いたという。

「マスターズ」での優勝争い。そこには“メジャー大会の優勝争い”と、ひとくくりにはできない独特の空気が存在する。球聖ボビー・ジョーンズと実業家クリフォード・ロバーツから脈々と流れる伝統と誇りが形作ってきたともいえる場所だから。

だがそこで、日本人として初のグリーンジャケット獲得を目指す松山にとっては、2011年にローアマチュアを獲得し、表彰式にも出席した事実が、きっとわずかでもプラスになる。

「アジアパシフィック・アマチュア選手権」を2連覇した実績も含め、グリーンジャケットを着たオーガスタのメンバーたちは、以来、ことあるごとに松山へと厚意を向けている。開幕前日の6日(水)も、練習ラウンドを終えてクラブハウス前へと戻ってきた松山に、ねぎらいの言葉を掛けるメンバーがいた。“受け入れられている”という感覚は、少なからず松山の中にもあるはずだ。

今年、悲願の「マスターズ」初優勝を目指すロリー・マキロイ(北アイルランド)も、ジェイソン・デイ(オーストラリア)も、「意気込み過ぎない」ことを揃って準備のポイントに挙げた。“海外勢”としてすでに優勝争いの経験がある彼らは、グリーンジャケットへと続く日曜日のバックナインに、どんな重圧が待ち受けているのかを、やはり充分過ぎるほど知っているようだ。目に見えない“空気”との戦いはすでに始まっている。(ジョージア州オーガスタ/今岡涼太)

■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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