2人の石川遼 揺れながら戦った米ツアー2年目
本格参戦2年目、石川遼の2013-14年の米国男子ツアーが静かに幕を閉じた。フェデックスカッププレーオフ第2戦「ドイツバンク選手権」で痛恨の予選落ち。第3戦に進めるポイントランキングの上位70人から脱落し、72位に後退してシーズンを終えた。
ツアー初優勝こそならなかったが、24試合に出場しトップ10入りを3度、トップ25入りを9度遂げたシーズンだった。10度の予選落ちは初参戦となった昨季と同じだが、昨季はトップ10入りが1度だったことを考えれば、これも進歩の証しだ。下部ツアー選手との“入れ替え戦”ウェブドットコムツアーファイナルズに出場していた昨年の今頃と、来季のシードを確定させた現在とでは、心境は大きく違う。
今季の石川は昨秋に始まった前半戦と、メジャートーナメントで華やぐ後半戦とで戦い方を大きく変えた。シード権獲得に苦労した昨シーズンの経験を踏まえ、まずは目の前のポイントをもぎ取るため、セーフティな攻め方を重視。その結果、出場できなかった4月「マスターズ」の前には翌シーズンのシードを確実にした。
後半に入ると、スタイルの変更を決めた。アグレッシブにボールを遠くへ飛ばし、リスク承知でピンを狙っていくかつての攻め方。集中的にショット練習を行うことを、5月末、オハイオのレストランでサポートスタッフに打ち明け、7月の北海道合宿を敢行した。この冬にも長期の合宿に入るつもりだという。
石川の中には今、はっきりと「自分が2人いる」という。
「すごく結果を求めている自分、結果を求めず向上心を持っている自分」
まさにこのシーズンの前半戦と後半戦とで分かれた、2つの人格だ。
「結果を求めている自分がめちゃめちゃ強いんです。けれど、向上心を持つ自分を強くしないといけない。意識的に結果にこだわらないこと。取り組むことに取り組むことで、結果を出したい」
最終戦まで進出すれば来年度の「マスターズ」の出場権も手に入るプレーオフの直前、ドライバーを替えた。いままでよりも1インチ短い45インチの新しいシャフトを挿した。だが第1戦、第2戦とも不安定なティショットが足かせとなり、第3戦進出はならなかった。
ドライバーを替えなければ果たしてどう転んだか?という見方もできる。ただ、その決断にも理由があった。
「僕は近い将来(シャープに振れる)45インチに戻したいと思っていた。それが、プレーオフが終わってからでいいか、というのはすごく嫌だった。プレーオフは短期決戦で、結果がすべて。ただ、結果を求めすぎては、体と頭が動かなくなるんじゃないかって。そういう自分に対して、結果を求めてはいないんだと、強く立ち向かわないといけなかった」
勝つための理想と、生き残るための結果。その2つを、2人の自分を絡め合わせ、高みを目指す最善の術としていく。
10月の「フライズドットコムオープン」で開幕する2014-15年の新シーズン。石川はテーマに「自分の精神状態のバランスを取ること」を挙げた。米ツアーでは昨秋同様、まず「結果を求めていく」という。9月の「ANAオープン」をはじめ、年末までにスポット参戦する国内ツアーでの戦いぶりは、来年度の「マスターズ」出場などがかかる世界ランク50位以内への復帰にも直結するはずだ。
「(松山)英樹に比べたら、上に進むスピードはすごく遅いかもしれないけれど、自分のペースというか、人生なので。羨ましいなと思っても仕方がない。這い上がっていきたい」
結果の波、調子の波は誰しも避けられない。石川の波は、多くの選手たちより大きいのかもしれない。ただ一歩引いて、広い視点で眺めたとき、右肩上がりになっていればいい。(コロラド州デンバー/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw