米ツアー苦闘の1年で石川遼が掴んだもの
PGAツアー(米国男子ツアー)の本部が置かれ、毎年5月に「ザ・プレーヤーズ選手権」が開催されるフロリダ州ポンデベドラビーチのTPCソーグラス。石川遼は米ツアーフル参戦1年目のシーズンをこの地で終えた。だが、その舞台は「ザ・プレーヤーズ-」が開催される華やかなスタジアムコースではなく、その隣にひっそりとたたずむダイズバレーコース。来季のPGAツアー出場権を争う下部ツアー(ウェブドットコムツアー)最終戦「ウェブドットコムツアー選手権」が、大志を抱いてアメリカに渡った22歳の今季終着点だった。
フェデックスカップランキングで、フルシード獲得の125位に届かなかった石川(141位)は、今年から新設されたウェブドットコムツアーとの入れ替え戦(ファイナルシリーズ)4試合へ向かうことを余儀なくされた。昨年ウェブドットコムツアーを卒業したばかりのラッセル・ヘンリーが1月の「ソニー・オープンinハワイ」で早々に優勝を飾るなど、下部ツアーとはいえ上位選手の実力はあなどれない。「自信がある方ではなかったし、不安も半分あった」というのが、当時の偽らざる心境だ。
第1戦は「気合いも入っていたし良い準備も出来ていたけど、それがゆえに空回りしてしまった」と、まさかの予選落ち。だが、「初戦で痛い目にあって気付かされた」と、その後は“入れ込みすぎない”気持ちのコントロールを意識した。第2戦で5位、第3戦で7位タイと本来のプレーを取り戻し、来季シードの条件である賞金ランク25位入り(レギュラーシーズンの獲得賞金上位25人を除く)という最低条件を最終戦前にクリアした。
最終戦の勝負はさらにどれだけ優先順位を上げられるか。初日のスタート直前、スマートフォンのイヤホンを耳に入れながらパッティンググリーンで最終調整をしていた石川をカメラ越しに眺めていた。すると、突然にやけ顔になったかと思うと、そのうち堪えきれずに爆笑し始めるではないか。張り詰めすぎる神経を緩めるための取り組みの一つに違いないが、あとで何を聞いていたのか尋ねてみると、「やましいものじゃないですよ(笑)」とはぐらかされた。だが、一昔前の悲壮感が綺麗さっぱり抜け落ちていたのが印象的だった。
4日間の戦いの末、この試合で8位タイに入った石川は13位という来季の優先出場権を獲得した。初戦以降は3戦連続トップ10入り。初ものづくしの環境の中、上出来の結果といえるだろう。特に試合中に何度も見せた、悪い流れの淵からの生還には、この1年で身につけた石川のたくましさが宿っていた。
最も印象に残ったのは2日目の9番ホールだ。10番スタートのこの日、石川は快調に4バーディ(ノーボギー)を奪って通算5アンダーへとスコアを伸ばしていた。ところが、残り4ホールとなった6番で、突如予想外の雨が降り始める。最初はパラパラと降っていたものの、グリーンに着く頃には大粒の雨に変わった。同伴競技者が傘を開き、レインウェアを慌ただしく着込む横で、石川はただ濡れていた・・・。雨具の用意が無かったのだ。
続く7番は3パットでこの日初めてのボギー。8番も左サイドのラフを渡り歩いて連続ボギー。雨に濡れて力感の微妙な変化に戸惑ったのかもしれないし、雨具がないことに気持ちが揺れていたのかもしれない。9番でもティショットをラフに入れ、水を吸ったラフからはフェアウェイにレイアップするのが精一杯。明らかに流れは悪かったが、“3連続ボギーフィニッシュ”と“ナイスパーフィニッシュ”を分ける2.5メートルのパーパットは、静かにカップの音を響かせた。
石川はこれを単に技術的な成長と片付けたが、そこにはそれ以上のものが感じられた。今年中盤はどんなに良いプレーをしていても、一つのミスから崩れていく若者がいたが、今は違う。松山英樹と共に出場した「全米プロ」あたりから意識が変わってきたと本人も認めるが、(表現は本意ではないかもしれないが)松山の持つしぶとさが石川にも乗り移ったかのようだ。
「去年や今年の序盤よりゴルフは良くなってきた。費やした時間は長かったけど、その分時間をかけて作ってきた自分のゴルフは崩れにくくなってきているのかなと思う」。この自信に裏打ちされた技術こそ、1年の苦闘の末に掴んだ財産だ。
米ツアーの2013年シーズンは終わったが、すぐに次のシーズンが開幕する。「両親には、早く帰ってこいと怒られていますけど・・・」という石川は、まずは米国で2戦、その後は中国での試合に出場することを決めている。父との二人三脚で掴んだ成功だが、その関係も大人同士のものへと変わりつつあるようだ。己の道を、己の力で切り開いた自負もあるだろう。「親は親なりに心配してくれていると思うけど、僕は僕で考えがあったりする」と、配慮はしながらも、自らの意志を貫く姿勢は崩さない。「僕はこっちでやっていきたい。今年は、なかなか日本のファンの皆さんに良いニュースを届けられなかったけど、来年こそはと思っています」。力強い言葉に、大きくうなずいている自分がいた。(フロリダ州ポンテベドラビーチ/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka