2013年 マスターズ

PGA Tour Rookie / Ryo Ishikawa(7) いつもと違う、5度目のマスターズ

2013/04/01 11:24
「シェル・ヒューストンオープン」で予選落ちを喫した石川遼。次戦は5年連続出場となる「マスターズ」だ。

3月末に行われた自身の今季9戦目「シェル・ヒューストンオープン」の開幕2日前、テレビクルーのインタビューに答えていた石川遼が、一瞬、言葉に詰まった。自身の次のトーナメント「マスターズ」についての質問が飛んだ時だ。

「これがマスターズ前、最後の試合です。いま確認したいことは?」そんな問いかけに、視線が宙に浮く。「えー・・・ほとんど、ないというか・・・うーん・・・」と考えをめぐらせた直後、「ショットの状態も自分が何をすればいいか分かっている状態ですし、あとはアプローチ、パットは試合でないと上達しない。そういう意味では今週がその最後のチャンスになります」。そう、いつものように100点満点の回答を瞬時に導き出した。

しかしやはり、この時点で彼の頭の中には「マスターズ」の文字は、ほとんど無かったと言っていい。

4月。2009年から5年連続でオーガスタナショナルの芝を踏む。しかし今年はこれまでで最も、疑問が残る出場だ。前年度末に世界ランク50位以内入りを逃し、PGAツアーのメンバーになったにも関わらず、主催者からは「アジアを牽引するプレーヤー」として特別招待のレターが届いた。知らせを聞いた時の石川の胸中は、喜びよりも戸惑いの方が大きかった。

もちろん光栄なことである。しかし新シーズンが開幕してから3か月がたった今も、今年一番の目標はシード権のキープだ。そしてここまでの戦いぶり、9試合で決勝ラウンド進出が3回という状況が、苦悩の色をより濃くする。目の前にある課題は山積している。だからこそ、「軽視しているとかじゃなくて、違う意味で、他の試合と同じっていうか・・・。『ああ、次の試合はマスターズか』みたいな感じだよね」。

ヒューストンオープンの戦いも、2日で終わってしまった。コンディション不良から、前週好調だったショットが乱れた。不安を残してオーガスタへ向かう。それでも、その姿勢は変わらない。「1月から、シーズンが終わる8か月、9カ月を考えてスタートしている。(マスターズは)今年はそのうちの一試合に過ぎないと言ったら、言い過ぎなんですけど・・・。もちろん特別な感情は生まれると思うけれど、“半減”くらいな感じはしますね」と正直だ。

さらに言えば、この3か月の経験も意識に変化をもたらした要因だ。「こっちにはすごく良いコースがたくさんある。今年初めて回るところも、たくさんあった。僕の中で(一番)良いコースはオーガスタだっていうのがあったんですけど、それに匹敵するようなコースを今年だけでもいくつか回ることができた。コース(オーガスタ)に対する特別な感情が少なくなってきた」。今季出場9試合のうち、初参戦の大会が4試合。見事に全部予選落ちしたが、どれも挑戦意欲を高めてくれる刺激的なコースばかりだった。

年明けの頃と現在の、石川の大きな違いは“練習ができるようになってきた”ことだ。腰痛の影響で、開幕直後は同じ姿勢を保つことで患部に負担がかかるパッティング練習がほとんどできなかった。いまも日替わりの状態ではあるが、ようやく宿舎でもボールを繰り返し転がすまでになってきた。

成瀬克弘氏は、日本男子ツアーに帯同するオフィシャルフィットネスカーで選手たちをサポートするチーフトレーナー。今年は国内ツアー開幕前の米国で、石川をサポートした。故障個所の日々のトレーニングを「一枚一枚、筋肉を重ねていくイメージです。だいぶ“貯金”ができてきた。“金”は筋肉の“筋”です。ここまでは真剣にやってきた彼の力」と振り返る。

思うような成績が残せなかった序盤戦の結果、石川はマスターズ直後も当面の間、日本には帰らず米ツアーに専念する見込みだ。招待状をくれたビリー・ペイン会長も、眼鏡の奥のその目をつり上げてしまうかもしれない。でも、今年のマスターズは、彼にとって「2013年の10試合目」なのである。(テキサス州ヒューストン/桂川洋一)

■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール

1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw

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