石川遼を高みへと導くノーマンの存在
最終日のシングルス戦でバッバ・ワトソンと当たることに、石川遼は一抹の不安を感じていた。「バッバに勝てないんじゃないか」。初日、2日目とダブルス戦で連敗を喫した相手。しかも、今週は3勝1敗と米国選抜のリードに大きく貢献している活躍ぶり。弱気がのぞくのも無理はないだろう。
しかし、その不安は杞憂に終わった。序盤の3番で1UPのリードを奪ってからは主導権を完全に握り、終わってみれば3&2の完勝。フェアウェイキープ率は90パーセントを超え、パット数も24の好内容。見違えるようなプレーを見せた一因には、キャプテンを務めるグレッグ・ノーマンの鼓舞、そして石川が寄せる強い信頼があった。
4ポイント差を追う展開で、石川が指名されたのは3組目。石川は言う。「キャプテンは勝つことを前提の上で、最初の半分(の組)くらいで追いつくプランだったと思う。3組目に選ばれたことで、あとはそれを果たすだけ。気合も入りました」。
さらに最終日の朝、ノーマンから一人一人に“今までの自分のベストなプレーをすれば勝てるはず。自分を信じて戦ってきなさい”というメモが手渡されたという。「あ、そうだな、と思えた。飛距離も小技の精度も相手が上だけど、もし全部のショットがベストだったら勝てると思えた」。石川の弱気は吹き飛び、戦いへの士気はより高まった。
石川が初めて出場した09年大会でもノーマンがキャプテンを務めたが、「前回とは何もかもが違う」と回顧する。「キャプテンはチームの為に、前回とは違ったリードをしてくれた。自分がチームの一員として溶け込めたからなのか、よりキャプテンの気持ちを汲めたと思う」。世界選抜のメンバーとして、そしてノーマンと共有する時間が増すにつれ、指揮官への信頼は増していった。「(アダム)スコットや(アーロン)バデリーに比べたらまだまだだけど、それくらい期待されるような選手に早くなりたいですね」。米国・ミュアフィールドビレッジGCで開催される2013年大会。再びノーマンと相まみえる時、それは石川がさらなる輝きを放つ時だ。(メルボルン/塚田達也)
■ 塚田達也(つかだたつや) プロフィール
1977年生まれ。工事現場の監督から紆余曲折を経て現在に至る。35歳を過ぎてダイエットが欠かせなくなった変化を自覚しつつ、出張が重なると誘惑に負ける日々を繰り返している小さいおっさんです。