2021年 マスターズ

松山英樹の偉業に立ち会えた感謝 コロナ禍「マスターズ」観戦記

2021/04/13 17:55
最終日の最初のショットを放つ松山英樹(提供:Augusta National Golf Club)

◇メジャー第3戦◇マスターズ 最終日(11日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7475yd(パー72)

3日目を単独首位で終えた松山英樹が取材対応に追われているタイミング。パッティンググリーンでは早藤将太キャディが練習器具を準備していた。「歴史を塗り替えましょう」。遠くから声だけかけると、そんな言葉が返ってきた。今回は観戦チケットで入っている立場。応援する側のこちらまで早くも力が入ってきた。

最終日の松山は、ともに最終組を回るザンダー・シャウフェレよりも先に1番のティイングエリアに入って運命のスタートを待っていた。これまでも優勝争いでは同伴競技者に先んじて準備を終えていた記憶がある。すでに駆け引きが始まっているのかもしれない。

パトロンは“移り気”だった。最初はシャウフェレの応援に一層の熱を感じたが、5番のダブルボギーで明らかに意気消沈。今度は各所のリーダーボードでウィル・ザラトリスのスコアを真っ先にチェックしている。

日本のエースは頼もしかった。垣間見せる自然な笑顔が精神状態の充実を物語る。8番(パー5)、9番と連続バーディ。後続との差は5打まで開き、空気を変えていく。グリーン周りやティイングエリアに陣取るパトロンが松山を拍手とともに迎えるようになってきた。新たなマスターズチャンピオン誕生の確信を深めていくかのように。

難関10番は美しいティショットからパーで切り抜けた(提供:Augusta National Golf Club)

2017年、ノースカロライナ州クエイルホロークラブでの「全米プロ」は取材で現地にいた。単独首位で迎えるメジャーのサンデーバックナインは、あのとき以来。まず、タフなパー4の10番。この日スタートホールのティショットを右に曲げた3Wで、美しいドローボールの軌道を描いた。勝手にグリーンジャケットに近づいた気になった。

13番(パー5)で現実に引き戻される。12番(パー3)のバーディで息を吹き返したシャウフェレが、続けてイーグルチャンス。「まだアクセルを踏み続けなあかんのか…」。隣で見守る飯田光輝トレーナーがつぶやく。そろってバーディで5打差のままアーメンコーナーを抜けても、なんだか落ち着かない。

15番でセカンドショットの行方を見つめる松山(提供:Augusta National Golf Club)

15番(パー5)は生きた心地がしなかった。松山の第2打が勢いよくグリーンを突き抜けた。異様なほど小さかったどよめき。奥に広がる16番(パー3)の池に入ったことを理解するまで時間がかかった。シャウフェレがバンカーから、あと少しでチップインイーグルのショットを放つ。2打差に詰まった。のどが渇く。「マスターズ」の優勝争いの先頭を走るという夢のシチュエーションを楽しむ余裕なんてない。あまりにもしゃべらなくなっていたらしく、ロープの外で一緒だった“チーム松山”の面々からツッコミを受けた。

16番(パー3)でシャウフェレのショットが池にこぼれた。前半は2番(パー5)の林の中をひっそりとクリークが流れているくらいなのに、後半は視覚的にも“水”が絡んでドラマを演出する。恐ろしくメリハリの利いたコースだ。

最終18番グリーンでは松山優勝の瞬間を見届けようとパトロンらが見守った(提供:Augusta National Golf Club)

最終18番、松山の1Wショットの打ち出しを見ただけで、目の肥えたパトロンから「パーフェクト」の声が漏れる。すぐにティペグを拾った本人の仕草からも手応えがにじむ。フェードボールがフェアウェイで跳ねたのを確認し、ようやく安心できた。

「おめでとう」と声をかけてくれるコーススタッフもいた。改めて感じる「マスターズ」を勝つことの重み、その歴史的な瞬間に立ち会うことができた感謝、同じ日本人としての誇らしさ…ゴルフの祭典にスポーツの真髄を見た。(ジョージア州オーガスタ/亀山泰宏)

■ 亀山泰宏(かめやまやすひろ) プロフィール

1987年、静岡県生まれ。スポーツ新聞社を経て2019年にGDO入社。高校時代にチームが甲子園に出場したときはメンバー外で記録員。当時、相手投手の攻略法を選手に授けたという身に覚えのないエピソードで取材を受け、記事になったことがある。

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