延期の「マスターズ」放送局TBSはどうする ゴルフ中継の難題とは
■中継放送枠はレギュラー番組に差し替え
新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界各国のゴルフツアーは中断を強いられている。例年4月に開催の男子メジャー「マスターズ」は3月13日に延期を決定。ゴルフ界最高のトーナメントは今年秋に開催を目指して調整を進めている。開催を信じて準備を進めるのは選手・関係者だけでなく、テレビ放送局も例外ではない。
1934年に始まった「マスターズ」が4月に行われないのは第二次大戦中以来のこと。76年に衛星生中継を開始したTBSが放送を見送るのはもちろん初めての出来事だ。現在、地上波他局や専門チャンネルを含め、予定されていたゴルフ中継枠は、プロゴルファーが出演する緊急特番や、過去大会の再放送で補われるケースが多い。だが結論から言えば、マスターズが中継される予定だった4月9日から13日(日本時間)は朝の情報番組を含め、既存のレギュラー番組に差し替わるという。
多チャンネル化の動きもあって、TBSでは2年前からBS放送を含め連日約8時間の長時間放送を実現してきた。ホスト局の米CBSがフィードする国際映像をメインに据えながら、独自カメラ10台で日本用の放送を構成。解説の中嶋常幸をはじめ、毎年国内外から約60人のスタッフが会場に乗り込む。中継車はプロダクションのあるカナダから米国南東部へ大陸を縦断。現地では長年、テレビマンたちはオーガスタ在住の日本人女性が準備する食事で日々の英気を養ってきた。さらに国内ではハイライト等をつくるスタッフが約40人待機。もちろん、深夜から早朝にかけての作業になる。
■オーガスタナショナルGCの逆取材
延期の知らせが募る失望が大きいことは言うまでもない。社会情勢から言えば、開催時期によっては番組スポンサーの継続が確約されるとも言い切れない。内野浩志プロデューサー(スポーツ局中継制作部)は「この喪失感というのは…。こういう状況ですから仕方がありません。それでも私たちは再開を待ちたい。現場としては100%の体制で放送したいという気持ちです」と苦渋の表情で話した。
ところで今年の「マスターズ」は延期決定の前段階として、無観客での開催というプランも検討されていた。その際、主催者のオーガスタナショナルGCは同時期に無観客試合が一旦発表されていた日本女子ツアー「ダイキンオーキッドレディス」(結局は中止)の放送局でもあるTBSに“逆取材”したという(ダイキン工業と共同で主催する琉球放送は系列局)。
「『ダイキンが無観客になるということで、どういう中継プランを立てているのか』という問い合わせでした。私たちは普段の中継では聞こえにくい選手やキャディの声、あるいは打球の音など、ゴルフの“生の音”を視聴者に聞いていただくことを意識することを考えていましたが、その矢先の延期決定だったんです」。未曽有の事態に直面した誇り高きオーガスタの困惑ぶりも、そして40年以上にわたって築かれた中継局との信頼関係の強さもうかがえる。
■ゴルフ中継は大変だ
そもそも、広大なフィールドで行われるゴルフ中継には豊富な人材リソースが必要だ。例えば国内ツアーの場合、スタッフの数は中継規模(主にホール数)によって異なるが、同局の実績では現場および本社での業務を含め、各大会で150人から200人が携わる。プロ野球の日本シリーズでもスタッフの数は100人弱だという。
ひとつのボールを追えばいいわけではなく、同時多発的にプレーが行われるからこそ放送には高いリスクも伴う。「近いのは陸上でしょうか。トラック競技と一緒に砲丸投げや走り幅跳びなどのフィールド競技が行われる」というのが特徴。天候にも大きく状況を左右され、ディレクター陣はぞれぞれのプレー映像のチョイスや組み合わせ、国際映像との調整など、高度なテクニックと経験が求められる。
混乱のさなか、ひとつ胸をなでおろせた最近のニュースが並行して準備を進めている「東京五輪」が21年の“夏”に延期されたこと。来年度のマスターズの時期とぶつからなかったことはゴルフ界にとっては朗報だった。まずは20年大会が待ち遠しい。「秋にあると信じています。秋のマスターズはどんな感じか、違う花が咲くのかと楽しみはあります」。ウイルス問題の早期収束と日常の回復を願うばかりだった。(編集部・桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw