世界1位の飛距離なるか?葭葉ルミと“クレイジー”な挑戦者たち
◇海外女子メジャー◇全米女子オープン 3日目(15日)◇トランプナショナルGCベドミンスター(ニュージャージー州)◇6687yd(パー72)
賞金総額500万ドル(約5.6億円)と“世界一”の栄誉を懸けて、全世界から156人の精鋭が集った「全米女子オープン」。その3日目を終えて、平均飛距離1位につけるのは、葭葉ルミだ。3日間の平均は255.63yd。2位のパク・ソンヒョン(韓国)に1.01ydの差をつけて、勝負は残り1日となった。
国内女子ツアーでも平均飛距離1位を誇る葭葉だが、その要因の1つに契約フリーとなった今季から使っているクレイジー(ニューアート・クレイジー社)の1W「CRZ-435」の存在がある。このヘッドは葭葉が中学生の頃から使っているもので、プロテストもこれで戦ったという「思い入れがある超名器」。プロ転向後は契約の関係で使えなかったが、今季から再び葭葉の頼もしい相棒として活躍している。
オフには飛距離を伸ばすためにスイングを変え、筋力をつけ、さらにシャフトとヘッドの組み合わせも追求した。シャフトはクレイジーのロイヤルデコレーション(46インチ、X、約52g)にし、ヘッド重量が軽くなった分、昨年より0.5インチほど長いものを使っている。もともとシャフト製造を得意とするクレイジーだけに「今年になって20ydは飛距離が伸びた」と、相乗効果は数字としても表れている。
クレイジーが立ち上がったのは2006年。だが、13年に社長が保険金をだまし取った詐欺容疑で逮捕され、その後も暴力団関係者であることを隠して銀行に融資を申し込んだことが明るみに出て、14年に倒産した。
だが、クレイジーは終わらなかった。経営譲渡され、2014年に新会社として再スタート。マイナスイメージを払しょくしようと、地道な活動を続けてきた。出入り禁止を言い渡されていた国内女子ツアーの会場に入れるようになったのは、昨年。ジュニアのころから同社製品を使っていた葭葉が契約フリーとなったタイミングも重なった。
事件前から同社で働く吉田尚亮さんは言う。「製品まで詐欺のイメージがつきまとっていたけど、少しずつ受け入れてもらえるようになってきた。(葭葉)プロも、自分のイメージが悪くなるリスクがあるのに使ってくれている。本当にありがたい」。
ブランド名を変えることも選択肢のひとつだったが、熱烈なファンのために変えなかった。製品はなにも悪いことをしていない――。そしていま、初めての「全米女子オープン」で、“飛距離世界一”の座を手に入れようか?というところまでたどり着いた。
あと1日。計測ホールは8番(パー5)と18番(パー5)。「昨日まで(平均飛距離1位とは)知らなくて…でも、きょうはさすがに意識してやりました」という葭葉。そのひと振りは、これまで苦渋を味わってきた男たちの夢も乗せている。(ニュージャージー州ベドミンスター/今岡涼太)
■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール
1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka