2012年 全米女子オープン

韓国選手にみる外国語と成功の因果関係

2012/07/10 18:24
優勝スピーチを流ちょうな英語でこなすチェ・ナヨン

先日行われた日韓男子プロゴルフ対抗戦に出場していたカン・キョンナムに話を聞いたとき、意外に感じたことがあった。彼は韓国ツアーで通算8勝を挙げ、韓国国内で一番勢いのある選手と評されている。その彼に日本ツアーへの興味を尋ねると「今、日本語を勉強しているので、あと1、2年。もう少し日本語がうまくなったら行きたいと思う」と言うではないか。

その理由を追及すると、先に日本ツアーに参戦している選手たちから、“日本語がしゃべれた方がツアーに早く溶け込める”“日本選手ともコミュニケーションが取りやすい”と聞いたから、という至極まっとうな答えが返ってきた。日本国内で米ツアー出場を目指し、まずは英会話に磨きを掛けるという選手をとんと耳にしたことがないだけに、ある種の戸惑いすら感じてしまったが…。

そして、今年の全米女子オープンを制したチェ・ナヨン。彼女の英語の上達に対しては、現地メディアやLPGAスタッフからの評価も高い。最近は、通訳を介さずに流ちょうな英語で受け答えをしているが、その裏には当然それなりの努力が隠されている。

2010年に賞金女王とベア・トロフィー(年間最少平均ストローク)に輝いたナヨンだが、飛躍のシーズンを終え「私はあまり多くの人に知られていない。特にアメリカのファンとメディアから」と痛感したという。すぐに英会話教師を雇い、翌年は1年間、朝食から晩ご飯まで、丸1年間行動を共にして英語漬けの生活を送ったという。

通訳を介して話をすると、同じ時間で半分以下の内容しか伝わってこない。それに、訳している間の手持ち無沙汰が、次の質問への意欲をそぐ。結果、その選手の内面の葛藤や情熱、個性が伝わらず、ファンの共感を得にくくなってしまう。

昨日のナヨンの優勝会見で「5打リードして最終グリーンに上がってきたときの心境は?」という質問が飛んだ。「本当のことを言うと」とナヨン。「知っている人は多いと思うけど、私は勝ったあとの儀式みたいなものが無い。ある人は、こんなアッパーカットのガッツポーズをしたり、いろいろあるけど…。でも私には何も無いから、ウィニングパットを沈めたらどうしようかと考えていた。でも、やっぱりすごく緊張していたから、そのパットを決めた後、何もできなかったんです。もちろん、すごく幸せだったんだけど、派手に喜ぶことはできなかった。そんなことをする勇気がないというか、それが私の個性なんだと思います」。

ささいなことだが、こういう心の機微が見ている人に親近感を与え、ファンへとなっていくのだろう。そんなファンが選手を支え、ツアーをより活性化させていく。一時はファン離れを懸念したLPGAが外国選手に英語テストを義務づけようとしたが、そんな懸念も選手たちの自発的な努力によって昔話となりつつある。韓国選手の戦いに挑む周到さと世界に挑戦する意気込みの強さ。そんなことがあらためて感じられた今年の全米女子オープンだった。(編集部/今岡涼太)

■ 今岡涼太(いまおかりょうた) プロフィール

1973年生まれ、射手座、O型。スポーツポータルサイトを運営していたIT会社勤務時代の05年からゴルフ取材を開始。06年6月にGDOへ転職。以来、国内男女、海外ツアーなどを広く取材。アマチュア視点を忘れないよう自身のプレーはほどほどに。目標は最年長エイジシュート。。ツイッター: @rimaoka

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