「東京五輪に出ていたら…」 古江彩佳の“人生”を変えた涙とエビアン
◇女子メジャー第4戦◇アムンディ エビアン選手権 最終日(14日)◇エビアンリゾートGC(フランス)◇6523yd(パー71)
今になって思えば、全てはつながっているのかもしれない。古江彩佳が「アムンディ エビアン選手権」で成し遂げたメジャー初優勝は、そんな巡り合わせを感じる“縁”に満ちている。
始まりは初出場した2021年より、もっと前の2013年。日本ジュニアゴルフ協会の海外派遣競技として「エビアン選手権ジュニアカップ」に出場した。当時13歳。女子の日本勢は石井理緒と2人だった。母・ひとみさんは、個人戦18位という結果以上に「フランスパンがおいしかった!」と満面の笑みで帰国してきた娘の表情が忘れられないという。
その時のイメージもあって、21年大会の出場資格があることを知って参戦を勧めた。「そっち(エビアン)はどう?」。あくまで本人の決断に委ねたのは、「東京五輪」の日本代表入りを逃した直後だったから。
稲見萌寧との争いに敗れ、ひとみさんが「あまり泣かない子」と評する我慢強い娘の涙は、とてつもない重圧の中で戦っていたことを示していた。エビアンの開幕は東京五輪が始まる前日の7月22日。日本で高まるオリンピックムードから距離を置き、ゴルフに集中する上では絶好のタイミングとも言えた。
「でも…」とひとみさんは続ける。「東京五輪に出ていたら、LPGA(米ツアー)には来ていなかったかもしれないですね」。スポット参戦したエビアンで4位フィニッシュ。帰国後に話す機会があった李知姫(韓国)から「そのつもりがあるなら、1歳でも若いうちに行った方がいい」とアドバイスを受けたことが、同年末に最終予選会にチャレンジする決め手になった。
今では不動の相棒となったキャディのマイク・スコット氏とも、3年前のエビアンが初タッグ。現在通訳として帯同するサポートスタッフも、エビアンをきっかけにゴルフ界に飛び込んでいる。導かれるように挑んだ米ツアーで1年目から優勝して世界中を飛び回る日々。母は「結果的に、彩佳の人生にとってすごい経験をさせてもらっている」と感謝を口にする。
世界最高峰の舞台で戦って3年目。24歳は身も心もタフになった。8月「パリ五輪」の切符を逃した翌週「ダウ選手権」でオリンピックについて聞いた時のこと。“傷”をえぐるようで少し気後れするこちらの雰囲気を察して「大丈夫ですよ、しゃべらなきゃいけないことだと思っているので」と笑った。にじみ出たトップ選手としての覚悟。ビッグタイトルも時間の問題でしかなかった。(編集部・亀山泰宏)
■ 亀山泰宏(かめやまやすひろ) プロフィール
1987年、静岡県生まれ。スポーツ新聞社を経て2019年にGDO入社。高校時代にチームが甲子園に出場したときはメンバー外で記録員。当時、相手投手の攻略法を選手に授けたという身に覚えのないエピソードで取材を受け、記事になったことがある。