同じことしか言ってなくない? 笹生優花からにじみ出る不安と気配りと魅力
◇女子メジャー第2戦◇全米女子オープン presented by アライ 最終日(2日)◇ランカスターCC(ペンシルベニア州)◇6583yd(パー70)
笹生優花を囲んでの取材は“記者泣かせ”でもある。プロ転向直後の日本ツアー時代から、「楽しんでプレーをしたい」という返答を繰り返すことが多い。英語、タガログ語、日本語、韓国語、タイ語を流ちょうに操るが、テレビカメラや大勢の報道陣を前にするといつもシンプルな言葉で淡々と話す。それは「思っていることがしっかりと伝わっているのか」という不安と、「誰も傷つけたくない」という気配りの表れでもある。
ある試合のラウンド後にふと、「米国(べいこく)って何?」と聞かれたことがある。日本人の父親を持つが、小学3年からフィリピンに移り住んだため、読めない漢字や知らない日本語はある。「アメリカ」と言われれば、もちろん理解できる。
発言が意図しない受け取り方をされる怖さから、同じことの繰り返しや言い換えを発しがちになる。しかし、公の取材の場を離れると「優花、いつも同じことしか言っていなくない?」とえくぼを作り、少しばつが悪そうにニヤリと笑う。
ショットを打ち終わるとすぐにサングラスをかけるのは、意識してのこと。紫外線から目を守る狙いもあるが、それ以上に「目は全てを物語っているって聞く。いろいろ(心の内が)ばれちゃう。目を見られたくない」と恥ずかしそうに話した。チャンスを決めた時のリアクションも、あえて“控えめ”を貫く。勝負事とはいえ、喜ぶ自分のすぐ近くには悔しい思いを抱えている人がいる、と考えているからだ。
だからこそ、同じ場所で戦う選手らは笹生の魅力に気づき、引き寄せられるのかもしれない。約1カ月前のオープンウィーク中、笹生はテキサス州ダラスに構える拠点のゴルフ場で、ミンジー・リー(オーストラリア)と練習をしていた。アプローチショットに始まり、長いクラブまで。早朝から夕方遅くまで長時間を一緒に過ごし、英語で何やら真剣に話し込んでいるかと思えば、笑顔で言葉を交わすこともあった。
優勝が決まると、チョン・インジ(韓国)からウオーターシャワーの手荒い祝福を浴びた。1つ後ろの組で最後のパットを自分ごとのように喜んだ大会2位の渋野日向子とは、力強いハグを交わした。首位から「78」と崩れて勝利を逃したミンジー・リーが笹生の記者会見を会場で見守っていたのも、その人柄を物語るエピソードだろう。(編集部・石井操)
■ 石井操(いしいみさお) プロフィール
1994年東京都生まれで、三姉妹の末っ子。2018年に大学を卒業し、GDOに入社した。大学でゴルフを本格的に始め、人さまに迷惑をかけないレベル。ただ、ボールではなくティを打つなどセンスは皆無。お酒は好きだが、飲み始めると食が進まないという不器用さがある。