2022年 Tポイント×ENEOSゴルフ

早咲きの桜に込められた思い 大山亜由美さん25年の生涯

2022/03/17 08:36
今年、初めて咲いた桜

「最悪だった。何が何でもこの子を助けようと思った。『なんとか命だけは』と思ったが、それができなかった」

女子プロゴルファーの大山亜由美さんに、がんが見つかったのは2018年4月だった。突然の報せに父・文明さん(61歳)も頭を抱えるしかなかった。

下部ツアーでは2度の2位(写真は2017年Skyレディース ABC杯 Ken Ishii/Getty Images)

同年3月に国内女子ツアー「Tポイントレディス」に出場し、5月の海外メジャー「全英女子」の予選に備えて調整していたが、意識を失った。病院での精密検査でステージ4のがんと判明。完治の可能性は数%もなかった。

広島と地元・鹿児島の病院で入退院を繰り返した。がんは全身の骨に転移しており、放射線治療と抗がん剤治療を施した。

得意クラブはパターだった(2017年ユピテル・静岡新聞SBSレディース Ken Ishii/Getty Images)

「絶対に治すと言っていましたが、体がかなりやられる。あれだけ強気な子でしたけど…」

治療の副作用で髪の毛も抜けた。しかし、契約先のアパレル撮影ではカツラを被って、笑顔で乗り切った。文明さんもスキンヘッドにして娘の闘病生活を支えた。

嘔吐するなど食事面でも苦しんだ。それでも体重を減らさないために、無理にでも口に押し込んだ。全ては競技に戻るためだった。

自宅には思い出の写真が飾られている

「最後まで復帰するんだと言っていた。最後の最後までティグラウンドに立ちたいと」。医師からはがん細胞の全摘出もすすめられたが、再起への道が絶たれることを知り、拒絶した。

筋力も落ち、力が入らずに車椅子生活を強いられたが、病室にはトレーニング用具を持ち込み、懸命にメニューをこなそうとした。その瞬間まで“プロゴルファー”であろうと力を尽くした。

「お父さん、他の人には絶対に言わないで」と病状のことは一部の人以外には知らせなかった。「泣いちゃうから」と5歳上の長男ですら伝えたのは、亡くなる2カ月前だった。

自宅近くの風景。この街で育ち、ゴルフの腕を磨いた

ゴルフを始めたのは8歳。文明さんが会社のコンペに向けて練習していると、後ろで見ていた亜由美さんが7Iを握り、見様見真似で前に飛ばしたのがきっかけだった。

ジュニア時代は絶対に曲がらないドライバーが持ち味。「いつもニコニコしていた。アホな子やったけど、後腐れもなく、天然で活動的だった」。さっぱりした性格で先輩後輩関係なく多くの女子プロから愛された。

2015年のプロテストに4度目の挑戦で合格。16年には大手芸能事務所「オスカープロモーション」と契約を結んで、話題を呼んだ。文明さんは同じ事務所の女優・上戸彩さんらのサインをねだったが、亜由美さんから「私は全く興味ないから」と一蹴された。

男子ではタイガー・ウッズに憧れていた(大山亜由美さんのInstagramより)

亜由美さんのInstagramには死去する1カ月前の男子海外メジャー「マスターズ」について投稿されている。これが最後の投稿になった。

2019年大会は憧れのタイガー・ウッズが優勝しており、「最高!」とコメントを残した。ツアー82勝のレジェンドも腰や背中の手術などで、どん底を経験。病床から観戦した復活Vに自身の姿を重ねた。

1番ティの近くに植えられた桜

2019年5月16日、25歳の若さで逝去。アマチュア時代から通っていた溝辺カントリークラブ(鹿児島・霧島市)の1番ティ近くには死去から1年後の2020年、亜由美さんが好きだった桜が植えられた。早咲きの河津桜で、誕生日である2月21日に花が咲いてほしいという願いだった。

植樹から2年の今年、初めて花が咲いた。亜由美さんの身長(166cm)と同じ高さだった桜は3mを超えた。今週、鹿児島で開催される国内女子ツアー「Tポイント×ENEOS」前には生前、親交があった女子プロらが桜のもとを訪れて亜由美さんをしのんだ。

女子プロらがコースを訪れて故人をしのんだ

世界で活躍することも、東京五輪へ出場する夢もかなわなかった25年の生涯。志半ばでクラブを置いたが、今もゴルフ談義に花を咲かせているようだ。(編集部・玉木充)

■ 玉木充(たまきみつる) プロフィール

1980年大阪生まれ。スポーツ紙で野球、サッカー、大相撲、ボクシングなどを取材し、2017年GDO入社。主に国内女子ツアーを担当。得意クラブはパター。コースで動物を見つけるのが楽しみ。

早咲きの河津桜

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