仁義なきパター戦争 テーラーメイドVSオデッセイ
女子ツアーのグリーン上で火花がバチバチと散っているようだ。前週の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」(宮城・利府GC)の会場。原英莉花は2週前の「住友生命 Vitality レディス 東海クラシック」から投入したテーラーメイド トラス TB1 トラスヒール パターを使用していた。
以前はオデッセイ(キャロウェイ)のパターを愛用していたが、「これまで使っているパターに不満があったわけではないですが、ミスヒットに強い。私はハンドダウンになりやすいが、それが出にくい。ちょっと気分転換もかねて」と理由を説明した。
原を筆頭にトラスパターを愛用するものが増加している。ミスヒット時にフェースのねじれを抑え、ボールの直進性を向上させるという。
きっかけのひとつといわれるのが、2020年9月の国内メジャー「日本女子プロゴルフ選手権」を制した永峰咲希が使用していたこと。これを見て投入を決断した稲見萌寧は今季8勝を挙げて主役に躍り出た。
他にも21年6月「アース・モンダミンカップ」での菊地絵理香の4年ぶりVを支え、堀琴音の7月「ニッポンハムレディス」でのツアー初優勝に貢献。「ミヤギテレビ杯ダンロップ」では原と最終組でプレーした浅井咲希も使用していた。
トラスパターの市場拡大についてテーラーメイドの担当者は「上位の選手に使ってもらえるので宣伝になります。こっちもチャンスだと思っています」と力強い。ツアーでのトラスパターの使用率は昨年の10%から30%近くにまで急上昇したという。
ツアーでの活躍に加え、コロナ禍ということもあり、直営店での在庫はなし。現在は12月頃の再入荷に向けて調整中とも。アマチュアゴルファーにとっても気になる存在に違いないが、まだまだ気軽に試せそうにない。
このトレンドにライバル会社のひとつ、オデッセイのツアー担当者も危機感を抱いている。
「話題になっているから打ってみたいと言う選手が多い。繊細さというよりも、ドーンと打てるのがいいのかもしれない」。今夏の東京五輪で稲見が銀メダルを獲得したことでさらに勢いが増したという。
「稲見選手の活躍で女子ツアーでは60%から50%にシェアが減った印象。10%だけどうちとしては大打撃で影響はもちろんあります」
パターでは圧倒的な存在感を示しているオデッセイだけに次の一手を模索中。「我々は長い目で、長期的にサポートしていきたい」と話す。一過性の流行に終わるのか否か…。パター界の横綱としてのプライドを垣間見せる。
興味深いのがこのトラスパターの人気が国内女子ツアーに限られていることだ。国内男子、米男子、米女子では市場占有率の変化は聞こえてこない。
「ミヤギテレビ杯」は西村優菜がオデッセイのパターで制して2週連続優勝を果たした。2019年の海外メジャー「全英女子」覇者の渋野日向子は契約先のピンを愛用している。
グリーン上での結果が順位に直結するだけにパターにこだわりを持つ選手も多い。シーズン終盤戦に向けて仁義なきパター戦争も過熱していきそうだ。(編集部・玉木充)
■ 玉木充(たまきみつる) プロフィール
1980年大阪生まれ。スポーツ紙で野球、サッカー、大相撲、ボクシングなどを取材し、2017年GDO入社。主に国内女子ツアーを担当。得意クラブはパター。コースで動物を見つけるのが楽しみ。