「私、イップスですか」堀琴音はいかにして葛藤を乗り越えたのか
◇国内女子◇ニッポンハムレディスクラシック 最終日(11日)◇桂ゴルフ倶楽部(北海道)◇ 6763yd(パー72)
初挑戦した2014年プロテストで合格してプロ入りした堀琴音が、念願のプロ初優勝を遂げた。フル参戦1年目からシード権を獲得して新人賞を獲得するなど注目を浴びてきたが、ショットのスイング不調が原因で低迷していった。
初めはただ「なんかうまくいかないな」と思っただけだった。初優勝をつかみたい一心で試合をこなしていくなかで、予選落ちした2017年「大王製紙エリエールレディスオープン」の第2ラウンドの2番で放ったアイアンショットがOBになったのを機に、少しずつ歯車が狂いだしたという。「自分、おかしいんじゃない?」。翌週の最終戦「LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」(18位)は難なく終えたが、一度陥った不信感は払しょくできなかった。
2018年に入って予選落ちは続き、瞬く間にシードを喪失。陥落した。「ボールはまっすぐに行かない。どう打てばいいかわからない」。不安に駆られ、眠れない夜が続いた。いつの日か「なんでゴルフをやらなきゃいけないんだろう」という考えも浮かんだという。
その渦中に、森守洋コーチに出会った。先輩プロの原江里菜に紹介してもらい、会ってすぐに「私、イップスですか」という質問を投げかけた。返ってきた言葉は「こっちゃんは違うよ」と否定され、「『絶対に直るよ』と言ってくれたのが森さんだけで、その言葉に少し楽になった。“まだ大丈夫なんだ”とうれしくなった」。
「うまくいくか、いかないか」。一抹の不安を抱えつつ、森氏にコーチをお願いすると決断した。2018年夏にそれまで家族と住んでいた神戸を離れてひとり東京へと引っ越した。「『ゴルフをやめよう』。そう考えたけど、でもいざそうなると“やめます”とはならなかった。このまま私の人生、スッキリしないまま終わるんじゃないかって。当たって砕けろじゃないけど悔いのない人生を歩みたい。今のままだと悔しいしか残らない。もっと続けたいって、練習している自分がいた」
技術面をはじめゴルフへの姿勢、メンタル面など隅々まで教わった。「どんなに悪い時でも絶対にネガティブな言葉をかけないコーチ。だから森さんに会うと毎回ポジティブになってくじけずにできた」。全力投球のみだった考えを「50%、60%でもいいんだ」と改め、心に余裕が生まれた。今年4月の「KKT杯バンテリンレディスオープン」で6位に入って「もしかしたら優勝できるかもしれない」と光明が差した。
苦しかった頃は、ツアー優勝者が9人もいる黄金世代をはじめとした若い選手が難なく優勝していくように見えた。そんななか、25歳は自分のゴルフに徹した。4日間75ホールをプレーして上り詰めた頂点の景色は「ずっと忘れられないだろうな」。(北海道苫小牧市/石井操)
■ 石井操(いしいみさお) プロフィール
1994年東京都生まれで、三姉妹の末っ子。2018年に大学を卒業し、GDOに入社した。大学でゴルフを本格的に始め、人さまに迷惑をかけないレベル。ただ、ボールではなくティを打つなどセンスは皆無。お酒は好きだが、飲み始めると食が進まないという不器用さがある。