「僕は甘かった」欧州でフルシード獲得ならず 比嘉一貴のこれから
◇国内男子◇三井住友VISA太平洋マスターズ 事前情報(8日)◇太平洋クラブ御殿場コース(静岡)◇7262yd(パー70)
スコットランド上空の雨雲は猛威を振るい、セントアンドリュースをはじめとした世界に名だたるゴルフ場は水浸しになった。10月の「アルフレッド・ダンヒルリンクス選手権」は連日の大雨で月曜日まで順延され、54ホールに短縮にして競技が成立。全選手が3コースを回る試合で、比嘉一貴が最後に回ったカーヌスティGLはバンカーが“池”になるほどで被害が最も大きかった。そんな、およそフェアとは思えない悪条件も言い訳にはできない。
宿泊施設が望んだようなものではなかったり、フライトが遅れたりするのも一度や二度で済むはずがなかった。昨年の日本ツアー賞金王の資格で参戦した、DPワールドツアー(欧州男子ツアー)の初年度。比嘉は年間ポイントレースで120位に終わり、116位までに付与された来季のフルシード獲得に失敗した。
トップ10入りは2月の「ヒーローインディアンオープン」(4位)と、久常涼が優勝した「カズーオープンdeフランス」(6位)の2回だけ。日本で“圧勝”した前年とは全く異なる一年を経験し、「プロ人生もまだ浅いですけど、ゴルフと、自分と向き合った時間が今までで一番長かった。でも、それがプロの本来のあるべき姿。僕の今までの、日本での取り組み方は少し甘かった」と思う。アマチュア時代から世代をいつもリードしてきた自負、そして賞金王の肩書は異国のトップツアーでは通用しなかった。
PGAツアーと併せて、ことしはここまで18の国と地域でプレーした。海外のコースへの知識の欠如、言葉や生活環境の違い。順応すべき問題を挙げればキリがない。「もちろん大変で、タフでした」というのが正直な気持ち。
「だけど、向こう(海外)の選手はそれをずっとやっているわけですよ。あれが普通。試合を求めて、海外でもどこへでも行って試合をするのが普通。試合を選んで出られるのは、その世界のトップ選手にしかできない特権だと改めて思った。ハングリー精神はあって当たり前。大変って言ってちゃダメ。大変だと思っているうちはたぶんダメなんだと」
戦いはこれで終わりではない。今大会から2週、日本ツアーに出場した後は、11月の下旬に開幕する欧州ツアーの2024年シーズン序盤戦のため、オーストラリアに飛ぶ予定。今年度よりも低い資格カテゴリで得られる数少ない出場機会にかける。「決して、行かない方が良かったとは思わない。苦しい中でいろんなことを体験できた。たくさん課題はありますけど、自分のゴルフの“現在地”を分析して、向き合うことができた」。海の大きさを身をもって知っても、帰る気にはまだなれない。(静岡県御殿場市/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw