「ほれちゃうよねえ」 キャディが抱きつきたくなる中島啓太の背中
◇国内男子◇ハナ銀行 インビテーショナル 最終日(18日)◇千葉夷隅ゴルフクラブ(千葉)◇7625yd(パー73)◇晴れ(観衆524人)
3日目の18番(パー5)、中島啓太の右ラフからの2打目が打ち出しより25yd左に落ちたのを見て、すかさずこぶしを合わせた。「あれはすごかった。ほれちゃうよねえ」と島中大輔キャディは目じりを下げた。
昨年から中島のキャディを務め、前週「ASO飯塚チャレンジド」のプロ初優勝もそばで見た。「思い切りの良さも判断力もある。普通の人なら慌てるところでも、待てる余裕があるのが強い」と島中キャディ。第3ラウンドの最終ホールもそうだった。
「一番苦手なピンポジションだった」と中島が話した3日目は、前半8番までオールパー。17番までに3つ伸ばしたが、首位に並ぶには1打足りなかった。それなのに、チャンスホールの18番でティショットは右の深いラフにつかまり、ボールには泥がこびりついていた。グリーン左手前には池、カップは左サイドに切られている。「つま先上がりのライで、ボールの右側に泥がついている状態でドローを打つと出球は左に飛んでいく」と、島中キャディが中島に伝えたのは「グリーン右奥のバンカーを狙って、カットに」。フェードでバンカーを狙ったショットはグリーン左カラーに着弾し、2パットで沈めてバーディを奪い最終日最終組に滑り込んだ。「いくらボクが伝えたところで、疑問があれば打ち切れない。ニュアンスをくんで“えい”ってやってくれる。それでスコアを伸ばすから、強いでしょう」と島中氏は振り返った。
思い切りの良さを持ちつつ、トラブルが来ても、バーディが獲れなくても慌てない。プレーのリズムも調子の良し悪しに左右されず常に一定で、ラウンド中に中島をなだめたことはほとんどなかった。「リスクがあれば少し引いて、ボギーにしないバーディパットを打てれば十分と考えてやっている」と冷静なジャッジは、以前タッグを組んでいた通算14勝のキム・キョンテ(韓国)に似ているという。
「目立たないパーのホールでも、すごいプレーはたくさんあった。思わず背中、抱きつきたくなっちゃう」とおどけた島中キャディ。それでも最終日はさすがに中島の疲れを感じた。次のショット地点へと歩く足は重く、「ぼーっ」としているように見えた時は意識的に声をかけた。5バーディ、1ボギー「69」で優勝には1打足りず。「やっぱり勝ちたかった」と悔しがる背中…抱きつく代わりに、そっとたたいた。(千葉県大多喜町/谷口愛純)
■ 谷口愛純(たにぐちあずみ) プロフィール
1992年生まれ。社会部記者、雑誌の営業その他諸々を経てGDOに入社。ゴルフは下手すぎて2017年に諦める。趣味は御朱印集めと髪色を変えること、頭皮を想って最近は控えてます。