「ゴルフは麻薬」 深堀圭一郎が描く60歳の夢
◇シニアメジャー第2戦◇キッチンエイド全米シニアプロ選手権 最終日(28日)◇フィールズランチイースト(テキサス州)◇7193yd(パー72)
「フェアウェイがどんどん硬くなってきた。ボールが『コン、コン、コン』って…。キツネを探してるんじゃないんだから」。たぶん渾身の、そして高尚なゴルフジョークなのだろう。やべぇ、ちゃんと笑わなきゃ…と思いつつ、聞こえないフリして背を向けるのが僕には精いっぱいだった。声の主は深堀圭一郎。爽やかさは健在でも、ちゃんと54歳なんだなあ。
オヤジギャグを発する中高年男性は、とかく若者からは冷ややかな視線を送られがち。そんな世間の風潮などお構いなしに、渡米してきた4人が醸す空気はネガティブな哀愁とは程遠かった。50歳以上のゴルファーの頂点を争うシニアメジャー。深堀も、藤田寛之も宮本勝昌も、生まれて初めて米国を訪れた兼本貴司も、事前の練習ラウンドから世界基準のコースに面食らいながら、球を打っては子供みたいにキャッキャと喜んでいた。
セッティングがフェアである限り、「コースが難しい」は彼らにとって「楽しい」と同義。「この年齢になっても、これだけ高いクオリティが求められるゴルフをやらせてくれる。感謝しかない」。4人のうち最年長の深堀の頭には、レギュラー時代に何度かプレーしたPGAツアーやメジャーの雰囲気がよみがえってくるようだった。
シニア入りして今年で5年目になる。レギュラーツアーのシードを失ってから、テレビ中継の解説者やリポーターを務めて…という流れは、傍から見れば、“かつての名選手”の末路をきちんと辿っているよう。それでいて、現役のプレーヤーとしても活躍の場が残されているのがプロゴルフの世界。そして深堀のキャリアにとっては最近、リポーター業こそが、第一線との接点として大きな役割を果たしてもいる。
「解説をやっているとね、『あれじゃ練習できないんじゃないか』と言われたりもするけれど、僕はやらせてもらうことで発見が多くて」。海外のトップ選手の真似をして、グリーン周りでグローブを外すようになったのは実はここ数年のこと。日本での「ZOZOチャンピオンシップ」ではタイガー・ウッズ、松山英樹の一挙一動を追った。「強い選手は皆、勝負所でしっかり打ち切れる能力、勝負球がある」と感じた衝撃は今、自身のプレーの糧だ。
半世紀を生きてなお、真剣に競い合う場がある。藤田は「恵まれてますよね。プロゴルファーって」と話したが、表舞台に立ち続けられる選手はひと握りどころか、“ひとつまみ”と言いたくなるほど数少ない。深堀は「これは“麻薬”なんだよ」とぽつりと言った。「何をやってみても、自分にはこれ以上楽しいと思えるものが出てこない。ミスをしたり、調子が悪かったりしてつまらない時もあるけれど、これ以上に達成感を得られるものがない」。成功の何倍、何十倍もの失敗を経験しても、ゴルフへの依存から抜け出せない人生がそこにある。
ツアープロである彼らほど、他人と競うためにゴルフをしてきた人種はいない。その情熱は年齢を重ねて、少し違う方向に進んでもいる。深堀は昨年、ふと「僕は60歳の時に今の飛距離、パフォーマンスを保っていられる自分でいたい」と思った。「僕は昔から、ナンバーワン、トップになり続けられるような体も、能力もないのは分かっていた。でも、自分の一番のクオリティを出し続けたい」と、より自分自身と戦うつもりでいる。
初めてのシニアメジャーで4日間を戦い抜いた。「これだけ集中して72ホールのショットを続けたのは久々な気がする。必死になりましたよ、また」。いくつになっても、メジャーの刺激はサビつきそうなハートの潤滑剤。6月には「全米シニアオープン」、7月には「全英シニアオープン」も控えている。(テキサス州フリスコ/桂川洋一)
■ 桂川洋一(かつらがわよういち) プロフィール
1980年生まれ。生まれは岐阜。育ちは兵庫、東京、千葉。2011年にスポーツ新聞社を経てGDO入社。ふくらはぎが太いのは自慢でもなんでもないコンプレックス。出張の毎日ながら旅行用の歯磨き粉を最後まで使った試しがない。ツイッター: @yktrgw