東北から世界を目指す 本間ゴルフの戦略を劉建国CEOに聞く
中国の家電メーカーPOVOS(奔騰電器)社を率いてきた劉建国氏が、本間ゴルフの株式の51%を入手して会長に就任したのが2010年。その後、POVOS社の一部事業を売却し、本間ゴルフの発行済み株式の100%を取得して同社の本格経営に乗り出した。16年には香港で株式を上場。今年18年には賞金総額200万ドル(約2.2億円)の欧州ツアー「ホンマ香港オープン」のタイトルスポンサーとして、新たな一歩をスタートした。日本からアジア、そして世界を目指す本間ゴルフの戦略を、劉建国CEOにうかがった。
――初開催となる「ホンマ香港オープン」を実際にご覧になっていかがですか?
とても満足しており、それにはいくつかの理由があります。まず初めに、この大会は欧州ツアーの試合であり、とても大きなイベントであるということです。本間ゴルフはアジアのブランドなので、欧米に対してもっと露出をしていかないといけません。2番目に「ホンマ香港オープン」は、(マスターズを開催している)オーガスタナショナルGCと同じく、60年以上同じコースで開催を続けている大会であるということです。今年、本間は設立60周年で、「ホンマ香港オープン」も同じく60回目です。素晴らしい偶然ですが、それがこのコースで「60」という数字を多くみる理由です。とにかく、この2日間はとても満足しています。(※大会週の金曜日時点)。
――大会スポンサーに続く次のステップはなにを考えていますか?
アジアの人たちは、このブランドが日本発祥であることをよく知っています。1959年から続けているように、これからも開発や生産は(山形県)酒田市で行っていきます。これは、ブランドにとって、とても大切な血統です。同時に製品をもっと市場の流通に乗せていく必要があります。それには2つのステップがあって、1つ目は流通網の構築です。これまで、マーケティングにはそこまでお金を使ってきませんでしたが、それはまず流通を介して、より顧客が製品を手に取りやすくすることを優先したからです。いま、ようやくマーケティングにお金を使い始めています。トーナメントへの投資もマーケティング戦略の一環で、これ以外の機会も検討しています。
ちょうど本間ゴルフのウェブサイトをリニューアルして、1つの入り口で世界の全市場を対象にできるようになりました。いまアメリカでは、我々は金色のゴルフクラブを作るメーカーだと認識されています。これは誤った認識で、我々はもっとブランドイメージを若者向けで、現代的なものに変えていきたい。米国ではゴルフビジネスをリードする新たな人材も雇い入れました。ですので、今後はより国際的な拡大を期待しています。
また、ツアーアセット(資産)も見直しています。いま、日本と中国ではツアーチームの縮小を行っていますが、これにより、より国際的な選手に資金を再投資することができます。来年1月1日には、PGAツアーのトッププレーヤーをブランドアンバサダーとして迎えることになるでしょう。ほかにも数人がそれに続く予定です。これらが新たなツアーアセットとなっていきます。
――本間ブランドはクラフトマンシップが重要なファクターですが、それを維持しながら、どうやって事業を拡大していくのですか?
良い質問ですね。クラフトマンシップは本間ブランドの土台というだけでなく、日本全体の土台になっていると思います。“Made in Japan”、“Made in Germany”は、世界でも特別な意味を持っています。私は2010年に本間に来ましたが、そのときに本間の工場を中国やベトナムなど、他のところに移すつもりはないと宣言しました。実際、酒田工場のクラフトマンたちは最大の尊敬をもって遇されています。工場は自動化を進めていて、クラフトマンはクラフトマンを必要とする重要な工程に集中できています。自動化できるものは自動化して、クラフトマンは最も大事な作業を行います。同時に国際化も行っていて、酒田工場から世界に向けて製品を供給できるようになっています。2010年は30万個だったのが、昨年は90万個の製品を出荷できるようになりました。
また、2017年に外資系のテーラーメイドから、本間ゴルフの取締役へ就任した菱沼信之氏にも、大会スポンサードの意義などについて詳しくうかがった。
――過去3度の国内大会のスポンサード(15、16、17年)では、なにを学びましたか?
ツアーをスポンサードすることでの露出、存在感は力強いものがあるなと思っています。それに、ゴルフメーカーが大会を主催することは大事だなと。今回は本間だけじゃなく香港中で、大会というきっかけを使って練習場に子供たちを招待したりしています。日本でも3年間やって、トーナメント会場で完結するだけでなく、地域密着というか、いろんなところで、いろんな人とのつながりを作るということが1つの大事な学びでした。
――欧州ツアー大会のスポンサーとなった狙いはなんですか?
本間をグローバルブランドにしていくことですね。日本、アジアでのブランド認知は高く、成熟していますが、欧米ではまだまだです。アジアから次のステップを狙う意味で、欧州ツアーのスポンサーをやることで、いままでリーチしていなかった層にアピールしたい。国内ツアーのスポンサーをやって、日本やアジアでの(本間の)認識は埋められたと思うけど、それが欧米につながるかといったら決してそうではない。今回は欧州ツアーの開幕戦だし、あまり遠いところにいってしまうと本間ブランドとの親和性がなくなるので、香港というグローバルの中心地で開かれる大会を本間という冠をつけて開催することは、色々なビジネスメッセージを発信できる良い機会だと思っています。
――ゴルフ業界全体の先行きをどう見ていますか?
ゴルフはスポーツとしての価値があり、使い方や取り組み方を変えるだけで、とてつもないパワーを生むと思っています。日本はどうしても野球やサッカーといった団体スポーツでの人間形成ばかりが重視されてしまっていますが、ゴルフは個人スポーツで、年代に関係なく、個人として人間のプロになることができる。その意味でゴルフはほぼ唯一のスポーツだと思うので、そこにヒントがあると思っています。
いまは昭和の流れといったら語弊があるかもしれないですけど、ゴルフ場はゴルフ場、メーカーはメーカー、練習場は練習場と、どちらかというとバラバラです。自分たちが生きるだけでも大変な世界であることは重々承知していますが、少しずつそこが連動して、そこに自動車業界や、旅行業界、トレーニングや栄養関係も加わって、いろんなところから入る道ができればいいと思います。
個人的な考えですけど、チームでも話しているのは、本間ブランドとしてスポンサーをする子供たちは、もちろんプロゴルファーとして活躍するための種まきっていうのもありますけど、もしプロにならなくても、昔から用具提供などで携わったことで人間的に成長したよっていうことの一部でも担えるなら、そんなサポートの方法もあるのかなと思います。もちろんプロになるのも1つですけど、別のところで活躍することでゴルフのブランドアップにつながるとか、そういうことでもゴルフ強化のチャンスはあると思います。