2013年 ハッサンII ゴルフトロフィー

上杉隆のヨーロピアンツアー“プロアマ”潜入記~最終回~

2013/05/01 09:00
国籍、言語、そして動物までもが、ここモロッコでは多様性に富んでいるのだ・・・

最終ホールは左側に城壁が続くパー4の9番ホールだった。モリナリはずっと後ろのティからフェアウェイの右サイドに向けて強いティショットを放った。城壁に響く快音が結果の良さを教えてくれる。このホールでは日・独・伊・仏の4人のプレイヤーのボールが見事にフェアウェイに揃った。

セカンド地点に向かいながら、砂漠からの風と芝を照らす赤い太陽の光が、この国がアフリカ大陸にあることを想い出させてくれる。午前中、ラクダがいたあたりに立っている監視兵の影が長く延びている。コーランの声が響き、どこかで礼拝が始まっている。なんという異国情緒、ヨーロピアンツアーのこうした多様性こそが選手に豊かな経験を与え、成長の糧となっているに違いない。

実際、国籍(人種)も多様だ。私たちモリナリチームをみてもイタリア、日本、ドイツ、フランスの4選手、モロッコとベルベルのキャディ、さらには随行のロシア美女とイギリス人ビジネスマンと8つの民族が混合している。実際、ゴルフコース内には様々な言語が飛び交っている。フランス語、英語、スペイン語、アラビア語、日本語、ドイツ語……。さらには様々な動物も飛び交っている。イグアナ、トカゲ、カメ、カメレオン、そして得体のしれない鳥。ここはゴルフ場か、あるいはサファリパークか?いや、こうした多様性こそが生態系保全のために必要なのだ。地球環境保護、とりわけ温暖化防止のためにはゴルフ場の存在こそが不可欠なのだ。

それをどうだろうか。日本ではゴルフこそが環境破壊の元凶のように捉える風潮が広がっている。確かにゴルフ場が生態系に与える影響は小さくない。だが、ドイツで典型的なビオトープのような発想を持てばそれも乗り越えられるだろう。

いまや時代は変わった。京都議定書の議長国でもある日本とその国のゴルフ場こそ、環境先進国のドイツとともに手を携えて歩まなければならない時期が来たのだ。私は環境問題ではなくゴルフを語るために「世界のベランダ」とも称されるこの美しい街アガディールまでやって来たはずだ。

だが、思ったことをそのまま言ったり書いたりする性質が急に治るはずもない。よって、私は、このアフリカ大陸西岸の城壁の中のゴルフコースでも、ドイツからきたゴルフ雑誌の編集長に環境問題での質疑を繰り返していたのだ。そして、そのおかげだろうか、私たちモリナリチームはフェアウェイの芝の環境保全に著しく寄与し、代わりに自らのスコアを破壊していくのだった。

そういえば、今回のヨーロピアンツアーの参加者たちの身分は様々だった。プロゴルファー、世界企業の社長、外交官、政治家、ジャーナリスト、そして預言者……、なに、預言者?コース上でなんどもすれ違った王子こそがモロッコ王室の後継者、つまり預言者ムハンマドの正統な末裔のひとりである。

確かに、グリーン上での振る舞いも何やら高貴である。HDCP.1の腕前だという王子のゴルフは、なるほど、私が確認したホールだけでもすべてでパーオンに成功し、バーディパットに挑んでいたではないか。明日の夜、その王子らが主催する晩さん会(ガラ)がこの地で開かれるという。海沿いの高級リゾート「ソフィテル」の敷地内に張られた大型テントでは、そのための準備が着々と進んでいる。部屋からそうした様子がうかがえる。振り見れば、その脇には美しいビーチが広がっているではないか。

私は部屋着のままベランダを抜けて、夜明けのビーチにでた。久しぶりに飲んだ昨夜のワインがまだ少し残っている。だが、火照った顔に海風が心地よい。大西洋の朝焼けを「世界のベランダ」から眺める。なんという贅沢だ。今夜開かれるはずの「ガラ」の光景を想像しながら、私は誰よりも早く帰路に着いた。予選ラウンド2日目の早朝のことだった。(上杉隆)

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