PGAツアーとLIV統合計画 “独禁法”の行方は/小林至博士のゴルフ余聞
米国男子PGAツアーとDPワールドツアー(欧州ツアー)が、サウジアラビア政府系ファンドが支援する新興ツアー「LIVゴルフ」と事業統合することにより、反トラスト法(日本の独禁法に相当)違反の可能性が浮上している。新団体がプロゴルフ市場で寡占的地位を築くことで競争が制約され、選手の選択肢が狭められる懸念が生じているのだ。
資本主義経済社会では、原則として独占は問題視される。競争が制約され、高価格設定や品質低下、消費者の選択肢の制限、イノベーションの抑制などが引き起こされるからである。ただし、知的財産権を保護するための一時的な独占権(たとえばファイザー社によるバイアグラ特許)が認められたり、公益事業のような特殊な事情によって政府が独占を許可(たとえば日本の各地域の電力会社)したり、といった例外はある。
それでも、企業にとって独占的地位は“蜜の味”であり、手放したくない。独占である、とする司法当局と、独占でないとする企業との闘いは、市場経済における常なのだ。
スポーツ興行団体もしかり。独占ではない、というスポーツ団体側のひとつの拠りどころとなっているのが、1922年の米最高裁判決によって成立したMLBの「反トラスト法免除法理」である。この法理は、MLBに対して独禁法の適用を除外し、労働協約や選手の取引において反トラスト法の対象外とされることを意味しているのだ。
もうひとつ重要な法理が、1961年に制定されたスポーツ放送法である。これにより、NFLは、反トラスト法の制約を回避し、所属チームのテレビ放映権をリーグが一括して販売できるようになった。このリーグ一括販売方式は、現在に至るまで、アメリカのプロスポーツリーグではビジネスモデルの根幹となっている。
ちなみに、以前、私がプロ野球ソフトバンクホークスの取締役を務めていた際に、他球団有志とともにその可能性を模索してみたが、日本においてはおそらく独禁法違反になるだろうというのが、その筋の法律家や当局関係者の共通見解だった。
むろん、プロスポーツの興行に幅広い公共性を認めるスポーツ大国、アメリカにおいても、いつもスポーツ団体側に有利な判決が出るわけではない。1960年代~70年代にかけて、NCAA(全米大学スポーツ協会)は、大学アメフトの試合のテレビ放映について、全体最適を図る目的で、中継可能な試合数に上限を設けたり、地域を限定したりしていた。
これに対して、地域を越えた人気を博している大学アメフト部とテレビ局とが訴訟を起こした。米最高裁は、反トラスト法違反であるとの判断を下し、NCAAは、大学アメフトの放送権の管理を、各大学に戻した。
以上の例からも、スポーツ興行における独占と反トラスト法の関係は複雑だ。今回の事業統合についても、競技の発展、当該団体の権益、選手の権益、ファン(消費者)の利益など、利害は多岐にわたる。米司法当局は、どこに力点を置いた判断を下すことになるのか。水面下でのロビイングも含めて、推移を注目していきたい。(小林至・桜美林大学教授)