国内女子ツアー

女子ツアー「放送権」めぐる闘いはまだ終わっていない/小林至博士のゴルフ余聞

2021/12/26 12:45
華やかなアワードで終えた女子ツアーの2020-21年シーズン(JGMA代表撮影)

IT大手のGMOインターネットグループが、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の大会主催を辞退した件は、プロスポーツビジネスの根幹である「放送権」について理解を深めるための格好の教材である。

報道をかいつまむと、GMOはインターネットでの無料放送をできないとJLPGAから言われたことを理由に、来季の大会主催を辞退した。これに対し、JLPGAの小林浩美会長は有料であることは説明済みと表明したところ、GMOの熊谷正寿会長兼社長はツイッターで、無料はダメとの説明はなかった、と再反論した。

この応酬を、無料か有料か、長期的視点か短期的視点かなどの情緒的な話に落とし込んではいけない。事の本質は権利闘争である。つまり、JLPGAが、GMOにインターネット放送の権利を許諾したのかどうかで、放送権をめぐる闘いはまだ終わっていないということだ。

JLPGAは2017年以来、公認試合の放送権がJLPGAに帰属することを主張し、それから4年後の今年10月、小林会長は、主催者、テレビ局がその旨、承諾したことを発表した。しかし、こういうとき、取られた側が「はい、そうですか」と引き下がるというのは、私が知る限り聞いたことはない。契約書や条件が完全に整うまでの間、骨抜きにしようと、手練手管の限りを尽くす。いまは、そのステージなのだと想像している。

放送権など、試合や選手の肖像を元に発生する権利が、選手が所属している団体(団体スポーツであればチーム、個人スポーツであれば協会など)に帰属するのは、道理からいってもそうだし、日本を除く他の先進国では常識である。ゴルフでいえば、米PGAツアーは、4大メジャーを除くツアーの試合の映像の著作権を管理しているので、今年のベストショットを集めた番組など魅力的なコンテンツをいくらでも作れる。日本はそれができない。

分かりやすいのがプロ野球で、100年以上の歴史を誇るが、その映像は、テレビ局がそれぞれの判断で残しているものもあれば、そうでないものもあり、てんでばらばらだ。日本シリーズは72年の歴史を有し、秋の風物詩としてお茶の間に定着しているイベントだが、ハイライト映像もない。映像の著作権がテレビ局に所属しているうえに、試合ごとに放送局が異なるからだ。

ようやく2010年、パ・リーグは共同出資の映像管理会社を創設して、以降のパ・リーグの試合映像は、横断的に活用できるようになり、年間ハイライトや、珍プレー好プレー集などを制作できるようになっているが、セ・リーグはそれもない。日本のテレビ局は規制のもと新規参入がない、いわゆる既得権益業界である。プロ野球ビジネスの実務に携わった私は、そこに風穴を開ける困難さを痛感もした。JLPGAはその壁を打ち破った。日本のスポーツビジネスを世界標準に近づける先鞭をつけたことには違いない。(小林至・桜美林大学教授)