米国で絶賛される“絞り過ぎない右脇” 至高のスイング【松山英樹】
一週間でツアー史上最多となる65.5万人が来場した「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」で、米ツアーで日本人最多となる4勝目と、日本人初の大会連覇を成し遂げた松山英樹。いまや世界最高峰の域に限りなく近付いたその男のスイングを、ツアープロコーチであり、リアルタイムスイング解析システム「GEARS(ギアーズ)」のマスターインストラクターである青山充氏が分析する。
ポイント(1):テークバックからトップにおける不動の右膝
バックスイングの全行程において、松山の右膝はほとんど動くことがない。通常、右膝をここまで固定すると、普通の人なら骨盤は30度くらいまでしか回旋せず、その制限のために胸郭、肩の回旋不足につながってしまう。だが、松山はテークバックからトップへのトランジション(移行)時に骨盤が約50度、肩が約115度、Xファクター(肩と腰の回転差)は65度と理想的な値を記録している。強じんかつ柔軟な右脚と、足首、膝、股関節の柔軟性が、この夢の動きを可能にしている。
ポイント(2):切り返しでの素早いヒップスライド
“松山は右軸で打っている”と分析する人もいるが、実際にはそうではない。肉眼ではトップで完全静止しているように見えるがそれも違う。上半身の動きに無駄がなく、恐ろしくバランスが良い為に静止しているように見えるが、じつは切り返しでは非常に滑らかに、(かつ素早く)ヒップスライドが入っている。ワイドスタンスなので見えにくいが、実際には大きな下半身の並進運動(飛球方向への平行移動=ヒップスライド)を入れている。
最近はアドレス時のボールポジションを少し中に入れているので、以前より左へのヒップスライドは抑えられているが、いずれにせよ松山のスイングはトップで完全静止して見えるほどの芸術的なスムーズさで、下半身からのリードが行われている。
ポイント(3):ダウンスイングで絞り過ぎない右脇
インパクトでのフェース開閉および軌道の安定の為には、クラブをシャロー(緩やかな角度)に入れてきた方が良い。松山は切り返し初期に右脇を締め過ぎず、長いリーチをよりワイドに使うことで(クラブを体の遠くを通して下ろすことで)、圧倒的な懐の広さを獲得している。この手首のタメの少ない動きは角速度(回転運動の速度)を失うが、代わりに世界最高レベルの長いインパクトゾーンを生み出し、正確な縦の距離と高さのあるアイアンショットを可能にしている。
ダウンスイングで右脇を締め、右手首を使って(コックして)角速度を作り出せるとヘッドスピードは上がるが、フェース開閉が多くなり、アタックアングル(クラブの入射角)がダウン(マイナス方向/急角度)になってスピン量が不安定になる。松山のようにダウンスイングで右ヒジを絞らず、ボールに寄せずに、ターゲット後方にワイドに使う動きはアメリカのインストラクターたちの間でも高い評価を受けている。
ポイント(4):インパクトまで安定する首の位置
松山のスイングは顔の面が大きく変動する。テークバックで顔の面は右に、インパクトではより右に向く。しかし、三次元で分析するとインパクトまで首の位置は前後左右にぶれず非常に安定している。アドレスとインパクト時の前傾変化は2度以内。クラブヘッドが毎回正確な位置を通る為に必要な前傾角度は、機械のような正確さで安定している。
動くところは自由に動かし、動かさないところは絶対に動かさず、円周上のクラブヘッドを完全に支配している。ビジネスゾーン(腰の高さよりも下のクラブが通るエリア)で右手を使ったり、押したりする動きがないから、本人しかわからない範囲で切り返しのタイミングがズレた時に右手を外してもまったく問題がない。普段から右手を使ってスイングしていないから、右手が咄嗟に何かをすることの方が問題。タイミングがズレた時、物音がした時は取り敢えず右手を放すのは合理的な動きだ。
ポイント(5):パワーソース
一般的には大きい順番から、
1.床反力(地面からの反力/グランドフォース)を利用した垂直方向のエネルギー
2.回転によるエネルギー
3.横方向への並進運動エネルギー
松山は一番大きな垂直方向のエネルギーを使わず、ターンとシフトの2つをパワーソースにしている。ダウンスイングも正確性を重視した右腕の使い方、下半身も正確性を優先した使い方。グランドフォースを使ったジャンプはせず、切り返しで素早く左にシフト、ターン、そしてインパクトでしっかりと骨盤を止め切るクラシックなパワーの作り方。ただそのパワー、スピード、ブレーキのどれもが素晴らしい。曲がらないスイングのエッセンスを積み重ね、最強の肉体で飛距離を伸ばしている。
米国PGAツアーの選手たちに全く見劣りしない強靭な肉体が、実現不可能な理想のスイングを支えている。