ボールが自宅に飛び込み訴訟問題へ(アメリカ、フロリダ州)
定年退職を向かえたウォルター及びアイリーン・ゼルヴィック夫妻は、ゴルフはしなくてもその雄大な景色を楽しむために、ゴルフ・コース周辺に住みたいと考えていた。しかし、ティエラ・デル・ソル・ゴルフ・クラブのフェアウェイに平行して立つ新しい家での生活を始めたその日に、アイリーンは200ヤード遠く離れた場所から打たれたティショットに打たれ、彼女は裏庭で倒れた。
ボールがアイリーンの頭を直撃したのは2000年4月20日のことであり、彼女はそのボールを打ったゴルファーのジョン・ウィッツ、そしてフロリダ州レディー・レークのゴルフ・コースを所有するザ・ヴィレッジに対する訴訟を起こした。そして、その7月、ザ・ヴィレッジはゼルヴィック夫妻に損害賠償金を支払うことになった場合には、ティエラ・デル・ソルを設計したクリフトン・エゼルとクリフトン・ゴルフ・デザイン・グループに責任があると訴えた。
ゼルヴィック夫妻の訴訟は、フロリダ州タヴァレス市の巡回裁判所での審理を待った。そこでボールにより個人に傷害を及ぼす、もしくは所有地に損傷が生じた場合、誰の責任となるのかが問われる。多くのゴルファーは、ゴルフ場に隣接した住宅の住人が、ボールが飛んでくる可能性を受け入れることが当然であると考えている。しかし現在、道から逸れたショットに関しては、顧客の責任であると注意を呼びかけているコース経営者もいる。ゼルヴィック夫妻の訴訟からも理解できるように、責任はそのボールを打った本人のみの問題として決して終わらない。
住宅地に隣接するゴルフ・コースの人気が高まるにつれ、居住者とゴルフプレーヤー、またコースとそのコース設計者との衝突も増えてくるだろう。そしてそれらは法的、ビジネス上の手続きを要するようになる。医者が不正療法に対する保険金の急騰に直面しているのと同じように、設計者も設計の欠陥に対する申し立てから自分を守るための保険額が急騰していると言う。すでに、このような問題は多く存在している。実際にこの業界のトップをいく設計者も専門の証人として正式に雇用されるほどの訴訟があると言う。
「私は1週間に1回くらい(証人として出廷する)依頼の電話を受けていますよ」と、ハルザン・フライ・ゴルフコース・デザインのマイケル・ハルザンは言う。彼は責任問題上、コースの設計がいかに影響されているかを説明するために二つの例を持ち出した。
15年前までは、ホールに幅300フィートの通路があることが一般的であったとハルザンは言う。そして、約10年前に幅が350フィートに増え、現在のガイドラインは400フィートになっている。このことにより住宅は最低50フィート、ゴルフ場から離れていることを彼は奨励する。
「ゴルフ・コースの設計者はコースの長さまたは短さを判断する。しかし、弁護士はコースの幅により判断すると私はいつも言っています」
そのような予防措置があっても、保険業者が設計者の保険の掛け金を上げることを阻止するきっかけとはならない。この5年間で百万ドルのプロによる「誤り及び怠慢」に対する責任保険の方針に追加して百万ドルの一般の「災難及び落下」に対する責任保険が2倍以上になり、年間5万ドル上がったことになる。
ゼルヴィックの訴訟はゴルファーが「自らの怠慢そして不注意により、ゴルフ・コースの境界を完全に越えて、ボールを打った」ことを主張し、その上ウィッツが「フォア!」と叫ばなかったことについても、訴えている。
現在71歳のアイリーン・ゼルヴィックは、ウィッツのボールにより意識を失い、頭部にケガを負い、出血して倒れていた。訴訟によると、その傷害は永久的と見られ、回復のための医療費がかかるとされている。ウィッツはゼルヴィックの申し立てを法的な回答で否定したが、彼の弁護士によると、「それなりにわずかな金額」を提供することでこの事態を治めることに応じたらしい。
ウィッツが起こしたザ・ヴィレッジの責任を追求する訴訟では、コースのオーナーが「ティ位置により、ゴルファーがゴルフ・コースの境界から逸れて隣接する住宅地にボールを飛ばし、ケガを負わせる可能性があることを知っていた」と責める。また、ボールが住宅地に入らないように防壁を建てなかったことは、ザ・ヴィレッジの怠慢である、と主張する。
しかし、ザ・ヴィレッジは過失を否定し、法的な回答では、アイリーン・ゼルヴィックが自らボールに当たるように、自宅内で不注意に行動した」ため、彼女の責任であると述べた。
リクリエーションに関する法を研究し、バージニア州フェアファックスにあるジョージ・メーソン大学の教授でもあるジム・コズロウスキー博士は、法的な対応の前例を参考にすると、ザ・ヴィレッジに有利な裁定となると述べている。
「コースレイアウトが適切だとを仮定すると、フックあるいはスライスショットそれ自体が怠慢とは判断されません」と彼は言う。
コズロウスキー博士は1970年にニューヨーク上訴裁判所の判定により、ニューヨーク州マンハセットにあるプランドーム・カントリー・クラブで住宅所有者に重大なケガを負わせた15歳のゴルファーが勝訴した件を参考にした。裁判所は「ゴルフクラブに隣接する住宅地に自らの意思で居住するもの、そしてその理由で給付金を受け取り、カントリークラブ周辺に住むことにより、その他多くの利益を得たものは、それらに付随する時折の不快感を受け入れる必要がある」と判定を下した。
それでもなお、自分達を守るための手順を取り始めているコース経営者がいる。ピナクル・ゴルフサービス・コーポレーションの社長を務めるマーク・ミラーはフロリダ州クラーモントの住宅地周辺にある54ホールを管理する。ここ数年、責任を追求されることのないよう、彼は多くのホールを修正してきた。同じくピナクルが経営する36のホールをもつキングズ・リッジ・ゴルフ・クラブには、個人の私物、所有地に対する損傷はゴルファーの責任となることを呼びかける標識が複数立てられている。
ボールにより損傷を受けた人たちは、これらの努力と関係なく、責任を追及し損害賠償を受け取るために押し切るだろう、とハルザンは語った。
Golfweek