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「家族みたい」に寄り添った盟友マネジャー “チーム イ・ボミ”の証言(4)

日本女子ツアーで2015年から2年連続賞金女王に輝いたイ・ボミ(韓国)が今季限りで現役を引退する。長らく日韓のファンを魅了してきた“スマイルキャンディ”を支えた「チーム イ・ボミ」のスタッフのインタビュー連載。全4回の最終回は、マネジャーのイ・チェヨン(李彩瑛)さんがツアー帯同中のエピソードを明かした。(敬称略)

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「ドライな関係」から縮まった距離感

チェヨンの脳裏には初対面の時の記憶が今も鮮明に残っている。「(延田エンタープライズ)入社後、ボミさんを関西国際空港に見送りに行くという仕事だったんですが、その車内で私が腹痛(のちに急性胃腸炎と判明)を起こして…。迷惑をかけまいと必死に隠していました。『この仕事とは縁がないな…』なんて思いながら、始めて7年も経ちましたけど」。ボミとの関係はそんなハプニングから始まった。

年間7勝を挙げて初めて賞金女王を戴冠した翌年の2016年からサポートを続け、今年で8年目。仕事は選手のスケジュール管理、通訳など、キャディ、トレーナーとチーム制を敷きツアーに同行してきた。

チームではもっとも近くにいる同性でもあり、2歳差のふたりは時に姉妹にさえ見える。年下のボミはビジネスでもプライベートでも常に優しく、気さくに接してくれたが、チェヨンはマネジャーとしての立場を忘れないよう、オン・オフを意識的に切り分け、プライベートに踏み込むことはあえてしなかった。

「ビジネス上のドライな関係」が変化していったのは、韓国と日本との渡航が困難になったコロナ禍のことだった。

入国時の隔離期間に加え、試合会場への入場制限で家族の帯同が難しくなったことで、ボミは関西にあるチェヨンの実家にしばらく身を寄せることになった。「それまでは(選手の)プライベートに立ち入ったり、時間を共有したりすることはなかったのですが、行動制限の中で共に過ごす時間が増えて。お互い無言でそれぞれのことをしていたり、時にはインスタやYouTubeの面白い投稿を共有しあって笑い転げたり。家族みたいですよね」

話してみると意外と気が合うことや、自分と似ている性格にも気づいた。「ぶつかることもあるけれど、それぞれの立場(選手とマネジャー)を尊重しながら、納得するまで話します。(ボミは)一方的なわがままや、意見を押し通そうとするのではなく、成熟しているなぁって」。人としての魅力や惹かれる部分はメディアに映るそれと変わらないと感じていたとか。

“スマイルキャンディ”が漏らした苦悩

チェヨンさんが帯同した16年、ボミは5勝を挙げて、2年連続賞金女王を戴冠した。同年は39試合中31試合というハイペースでの出場で、目まぐるしい毎日を送った。「強くて、かわいい」、「プレー中の笑顔が素敵」と日本人のファンを魅了し、女子ツアー人気をけん引する存在として取材依頼が殺到した。毎週多くのメディアが彼女を取り囲む事態となり、マネジャー業務もパンク寸前だった。

2年後の2018年。不調に陥り、勝てない時期が続いた。 “スマイルキャンディ”の愛称はいつも付いてまわる。プロとして不甲斐ないプレーをファンに見せてしまった日には、笑いたくなんかない、そう思うのが本心だろう。

「ボミさんがいつか漏らしたことがあって。『“いつも笑顔のボミちゃん”はやめたくなる。もっとプンプンして、なにかに八つ当たりしたりして…』って。辛い時期だったと思います。そんなことを口にしても、本当は自分でもそうなれない性格だってことを理解した上で言うんです。一身に期待を背負っているからこそ、やっぱりファンや周りを裏切れないっていうことをずっと感じながらプレーしていたんだと思います」

その頃は口数も自然と減っていった。「このあと囲み取材があります」と伝えても「きょうはしゃべりたくない」と返ってくることもたびたびあった。チェヨンは再起を信じて、ひたすら寄り添うしかなかった。

「選手がメディアの前で話すことはプロとしての仕事だと思っているので逃げてほしくない。そんな時はあえてこう伝えます。『ボミさん、きょうは取材を受けなくていいですよ。ホテルに戻りましょう』と」。時々見せる天邪鬼(あまのじゃく)な一面には、この言葉が何よりも効いた。しばらくすると、期待通りの応えが返ってくる。「えっ、でもメディアの方が待っているんでしょ…」

引退に思うこと

ボミから最初に引退の意思を聞いたのは2021年の半ば。22年シーズンを最後の1年にしようと、ほぼ気持ちを固めたのは年が明けた頃だった。「本当にかっこよくて、強くて…」。いまも時々、YouTubeでボミの優勝シーンを眺める。もうすぐ、日本でプレーする姿を見られなくなる。覚悟はしていたけれど、ついに現実を受け入れなければならない時がきた。

「まだもう少しプレーを見ていたいような…。でも長く苦しいプロ生活を見てきているから、心から『おつかれさまです』って伝えたい気もします。12歳で競技ゴルフを始めて、ここまで休みなく突っ走ってきた長いゴルファーとしての生活は、私の想像以上に大変なものだったと思います。いまは素敵な伴侶を得て、妻として、一人の女性として、歩むこれからの人生を輝くものにしてもらいたい」

とは言え、いつまでも感傷に浸ってはいられない。チェヨンはきょうも冷静にマネジャーとしての職務にあたっている。「最後の試合まで全力でサポートします。ボミさんのやりたいことを一番に尊重しながら、できるかぎりそれを叶えてあげられるように最善策を探るのが私の仕事。発表数日前になって、『やっぱり(発表を)やめようかな』なんて、最後までイジワルなことを言って困らせてくるんですけどね」(編集部・糸井順子)

■ イ・チェヨン(李彩瑛)

1986年、兵庫県生まれ。金融機関での事務職を経て、2016年に知人の紹介で株式会社 延田エンタープライズに入社。現在まで総務部マネージメント室でイ・ボミの通訳、マネジャーを担当する。

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