2019/09/08世界OB紀行

「テーブルから消えたものは?」Pinehurst, North Carolina

ベーカリーカフェという看板を掲げたその店に着いたのは、8月のある土曜日の昼下がりだった。場所は「全米アマチュアゴルフ選手権」が行われていたノースカロライナ州パインハースト。地元の人気店のようで、散歩途中のカップルや犬を連れた家族連れがにぎやかに出入りしていた。店内には焼き立てパンが並んでいて、奥にはキッチンもある。イートインの場合、レジで注文して札をもらい、テーブルで待つというシステムだ。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) オムレツとトースト、それにカフェラテを注文してテーブルで待っていると、しばらくして店員が食事を載せたプレートを運んできた。同時に、通路をはさんだ隣の席か...
2020/02/22世界OB紀行

「キャッシュカードはどこに消えた?」Hong Kong, China

暗闇に光るデジタル時計は「3:30」を表示していた。ベッド脇の受話器を取ると、電話の向こうの男が早口に言う。「監視カメラの映像を確認しました。あなたが去ってから、次の客が使うまで11分。ほぼ間違いなく、カードは機械に飲み込まれています」。ホテルの部屋に戻ったのは30分ほど前のこと。すでに眠りに落ちていたところを叩き起こされて一瞬いら立ちも覚えたが、それは筋違いの感情だった――。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) そう、たしかにあのときだ。香港滞在の最終日、仲間数人でホテル近くの繁華街に食事に出かけた。日曜日だからなのか、路上には家族連れの姿も多く、飲食店も賑わっていた。我々...
2020/03/11世界OB紀行

「風を読む達人」San Diego, CA

心地よい海風をセイル(帆)に受け、船はゆっくりと滑るように動き始めた。「エンジンを切って、風だけで進み出す瞬間が最高なんだよね」と、操舵輪を握るその人は言うのだが、その快感はただ同乗しているだけでは味わえない。そのことに気付いたのは、もう少し時間が経ってからだった。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) その人(ここではRさんとする)は“アメリカンドリーム”を体現しているような人である。日本を飛び出してアメリカでキャリアを築き、56歳で悠々とリタイアした。趣味として始めたのがセイルボートだ。船にはエンジンも付いているが、それを使うのは出入港時や緊急時。沖に出るとセイルを張って、...
2020/01/19世界OB紀行

「マディソン郡の見えない風景」Winterset, Iowa

町に到着してすぐ早めの夕食に向かったダウンタウン。ふと、不安がよぎったことを覚えている。そのチャイニーズレストラン前に停まっていた車は、リアウィンドウまでびっしりと埃に覆われて、かなりアウトローな雰囲気を出していた。自分が運転するのはピカピカのレンタカー。並べて駐車することに抵抗を感じたのだ。だけど、まさか自分の車も同じようになるなんて、そのときは想像もしていなかった…。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) アイオワ州ウィンターセットは人口5000人ほどの小さな町で、映画「マディソン郡の橋」(1995年)の舞台として有名になった。映画は、屋根付橋(カバードブリッジ)の撮影に来...
2021/01/30世界OB紀行

「挑戦と無謀のあいだ」 Haleiwa, HI

アリューシャン沖で発達した低気圧によるうねりは、冬のハワイ沿岸に大波を運んでくる。オアフ島北部ノースショア一帯は、世界中からそんなビッグウェーブを乗りこなそうという猛者たちが集まってくるサーフィンの聖地。ワイキキからは車でわずか1時間の距離にある。実物を見てみたい!という衝動に駆られ、まだ太陽も顔を出さない土曜日の早朝に、眠い目をこすりながら北へ向かった。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) ポイントに近づくと、道路脇はびっしりと車で埋まり、海面を見下ろせる高台には無数のカメラマンが群がっていた。ふと見ると、道路脇の電柱に「Missing」という文字とともに若くたくましい上...
2018/03/27世界OB紀行

「ウェットスーツ問題」 Los Angeles, California

日本製か米国製か?それが問題だ――。いや、本当はもっと複雑で、究極的には「自分はどう生きたいのか?」という問いまで発した一連の選択の連続を個人的に“ウェットスーツ問題”と名づけ、ここしばらくずっと考えたり、人に意見を聞いたりしてきた。 サーフィンを始めることにしたのである。そこに、米国西海岸への出張が重なった。ご存知サーフィンの総本山である。サーフィングッズの価格も、総じて日本より安いという。よし、ウェットスーツを作ってこよう!というのが発端だ。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) 詳しい人にとっては簡単でも、初めての素人には未知のことだらけ。知人に「冬に千葉の海に入りたい」...
2018/04/03世界OB紀行

「スーパー・ブルー・ブラッドムーン」 Phoenix, Arizona

次の目的地はアリゾナ州フェニックスだった。飛行機を待つ空港ラウンジで、米全国紙「USAトゥデイ」のちいさな新聞記事に目がとまった。“スーパー・ブルー・ブラッドムーン”という見出しで、なにやら近日中に出現するレアな天文現象を解説していた。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) “スーパームーン”は月がその公転軌道上もっとも地球に近づいたときに起きる満月のこと。今回はNASAが認定しているというところがアメリカンだ。“ブルームーン”は29.5日周期で満ち欠けする月が迎える一カ月で2度目の満月。“ブラッドムーン”は月蝕のことで、月が血を浴びたように赤く変色することから命名された。この...
2018/07/25世界OB紀行

「黒い宝石」 Jeddah, Saudi Arabia

世界には容易に足を踏み入れられない場所がある。日本人にとって中東・サウジアラビアはそんな国の1つ。ようやく緩和に動き出したが、いまだに観光ビザが発給されず、入国するには商用、巡礼といった特別なビザが必要となる。今年4月、同国に新しくできたゴルフ場のオープニングイベントの取材話が舞い込んだ。渡りに舟ではあったのだが、渡航に際して身の危険を感じなかったかといえば、やっぱりそれはウソになる。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) 日本人にとって馴染みの薄いイスラム教とアラビア文字。アラビア半島最大の国土を誇るサウジアラビアには、 “女子高生のメッカ”でも、“バス釣りのメッカ”でもない...
2018/03/08世界OB紀行

「忘れられない目」Kolkata, India

これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である。 インドに行くのは5年ぶり2度目だが、コルカタは初めてだった。昨年末にインドツアーの取材で訪れた。そのイメージは、人が多くて、汚くて、貧しくて…“最もインドらしい場所”というものだった。数日が過ぎ、意外に普通だなと少し拍子抜けしていた頃の話だ。 ふと、カーリー寺院に行ってみようと思いついた。そこは女神カーリーを祭るヒンズー教の寺院で、毎朝生きたヤギの首を斬り落として、いけにえにしているという。地図で調べてみると宿からは徒歩20~30分の距離だった。 道ばたには野菜やくだものを売るおばさん、解体された豚をつるす精肉屋の青年、歩道の壁に鏡を置いただ...
2018/03/13世界OB紀行

「世界最古の理髪店」Kuala Lumpur, Malaysia

「髪を切る職業はいつ生まれたんだろう?」なんて考えたこともなかったけど、クアラルンプール(マレーシア)で泊まった宿に“世界最古の理髪店”と書かれた案内が置かれていた。“ギネス認定 当ホテル内にあり”なのだという。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) 思えば、はじめて海外で髪を切ったのは一人旅で訪れた22歳のパリだった。街角の飾り気のない美容院。店のマダムは英語をまったく理解せず、もちろんこっちもフランス語なんてこれっぽっちもわからなかった。でも、少し切るとすぐ「どう?」と確認してくれる優しさと、パリで髪を切ったという事実だけで心がはずんだ記憶がある。散髪は、その土地の人や文化...
2019/02/11世界OB紀行

「バンコクでの初体験」Bangkok, Thailand

これまで何度もタイを訪れたが、ムエタイを生観戦するのは初めてだった。国技という割にはタイ国民の人気はそれほど高くないらしい。「痛いから嫌い」とか、「そんなに好きじゃない」とタイの友人たちは首を振る。賭け事の対象になっていることや、貧困層のスポーツというイメージが敬遠される理由というが、イチ旅行者にとってはそれも魅力だ。インターネットでチケットを購入して、「儲けてやろう」とひそかに意気込み、タクシーに乗り込んだ。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) 向かったのは、1945年に開場したラジャダムナン・スタジアム。バンコク市内にあり、タイでもっとも古いムエタイおよびボクシングの専...
2019/07/13世界OB紀行

「勇気のいるサウナ」Levi, Finland

決断に許された時間は短かった。バスタオルを置いていくか、それとも持っていくか。オーストリア人のおっちゃんは、素っ裸でなにも持たずズカズカと洗い場に入っていった。隣のドイツ人は、いちおう手に握っている。もちろん、男だけなら気にしないが、脱衣場の前で別れたフィンランド娘は、こっちのサウナに一緒に入ると言っていたのだ。礼儀や習慣の違いというのは言いわけに過ぎなかった。やはり手ぶらは無理だった。自分はただ、全裸で女子を待ち受ける勇気がなかったのだ…。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) 人口530万人のフィンランドには、約200万個のサウナがあるという。寒い冬に身体を温めるには最適だ...
2019/03/30世界OB紀行

「スプリング・センセーション」Ocala National Forest, Florida

「泉」という言葉には、無から有を生み出す不思議な神聖さが宿っている。フロリダ帯水層という地下水脈を持つフロリダ州には、実に700以上の泉(湧泉)があるという。その中でも一級に分類される、湧出量の特に多い泉は33カ所。地図を眺めていると、ジャクソンビルからタンパへと向かう途中、その1つであるアクレサンダースプリングを経由できることを発見した。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) 出張には水着を持参するのが常である。なにより海があったら(入れる時期なら)入りたいし、チャンスがあればプールでも泳ぎたい。調べてみると、その湧水は年中一定の水温(華氏72度=摂氏22度)で、ベストシーズ...
2018/10/27世界OB紀行

「済州島のビジネス・バー」Jeju, Korea

韓国に行くのは久しぶりだった。正直に打ち明けると、しばらく訪れなかった間に虚実ないまぜの世間の情報にさらされて、韓国人に対する苦手意識が芽生えていたことも否定はできない。だからこそ今回は、その苦手意識をなくす旅にしようと思っていた。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) すべての仕事を終えた日曜夜に街へ出た。海鮮料理屋で刺身を食べ、韓国人女性記者に紹介してもらったサウナで、初のあかすりを体験した。想像と違ったのは、担当したのがおじさんで、こちらは素っ裸で施術台の上に寝転がり、なんの遠慮もなく体中をゴシゴシとされたこと。綺麗になったとは思うけど、やっぱりちょっと抵抗がある…。 サ...
2018/04/18世界OB紀行

「海外民泊事情」 Santa Monica, California

“旅の宿”といえば吉田拓郎。ではなくて、日本ではホテルや旅館が一般的だ。海外ではホテルやモーテル、コンドミニアムが主流だが、最近はよく個人宅にも泊めてもらう。いわゆる“民泊”というスタイルで、「AirBnb」(エアビーアンドビー)に代表されるインターネットの仲介サービスが結構便利に使えるのだ。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) そんな話をしていると、よく質問を受ける。部屋はどうなっているの?住人は一緒なの?ご飯はどうするの?タオルはあるの?…ということで、今回はこれまでに体験したいくつかの実例を紹介したい。 おおまかには、家主が一緒に住んでいて、その一部屋を貸してくれるパタ...
2019/04/10世界OB紀行

「オーガスタの“シリアス”な夜」Augusta, Georgia

「海外での怖い経験はありますか?」と聞かれることが多いので、今回はそんなお話。ほとんどないのだけど少しはあって、たとえば、あの「マスターズ」が開催される米国南部のジョージア州オーガスタでは、3年前にこんな経験をしたことがある。 (これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である) それは、深夜にまで及んだ仕事を終えて宿舎に戻ろうとした日曜夜のこと。泊まっていたのは安いモーテルで、24時間営業のマクドナルドやダンキンドーナツが集まった一角にあり、普段は一泊50ドルくらい(ただ年に一度、一泊200ドルになる週があり、そのときに泊まっていた)の安宿だった。 宿の前にある広大な駐車場を横切っていると、...
2009/06/06石川遼に迫る

遼、後半失速も「ショットは完璧!」

ティショットを右OBとして、ダブルボギーを叩いてしまう。続く15番パー5では、2打目でグリーン右奥のラフまで運んだものの、アプローチを3m近くショートすると、ファーストパットはカップに蹴られ、返しの…
2017/04/14米国男子

上がり3ホールで3つ後退 石川遼は悔しい1アンダー発進

は1Wショットが右に曲がり、ボールはOBラインよりも20cmほど外に転がった。コースのあるリゾート内の民家脇にあったOB杭を見て、思わず「(2打目を)打たせてくれよ…」と恨めしそうにポツリ。痛恨の…