全4回でお送りするGDOの2016年末のスペシャル対談。
Round1は破竹の勢いでワールドクラスのプレーヤーとなった松山英樹の2016年を、ふたりの言葉で振り返ります。2月のアメリカPGAツアー通算2勝目に始まった一年は、アジア勢初の世界選手権制覇を経て、タイガー・ウッズの主宰大会優勝という圧巻の締めくくり。普段は自ら明かすことがない、スイング論についても松山選手自身が語ります。

「何かに焦っていた。良いシーズンとは言い切れない」――松山英樹

―ふたりの対談は初めてですか

松山:そうですね。緊張?全然しないですよ。だって、ワールドカップで毎日一緒だったから。

石川:英樹とこれだけ一緒にいて、毎日ごはん食べて、一緒に回って、というのがこんなに続いたことはなかったですね。

松山:他の選手でもないんじゃないかな。プロになったらよっぽどじゃないと一緒に行動しないでしょう。ましてプロ同士だから、そんなに仲良くできないじゃない。お互いのスケジュールもあるし。(今回は)何でも話しちゃいそうだ。

石川:聞きたいことが、いっぱいあるよ(笑)。

―松山選手の2016年は世界ランキングで6位にまで浮上した輝かしい一年でした

石川:本当にスゴイですよ。世界でいま一番強いと思う。

松山:今年はね…まあ、勝ったから良かったけどね。でも、シーズン半ばの「ザ・プレーヤーズ選手権」が終わってから夏場、8月の頭くらいまでが、もったいなかった感じがある(全米オープン、ザ・メモリアルトーナメント、全英オープンで予選落ち)。振り返ると、あの時期は何かに焦っていたのかなと思う。だからもったいなかったというか、良いシーズンだったとは自分では言い切れない。

―故障離脱していた石川選手は、松山選手が苦労していた時期をどう見ていましたか?

石川:メジャーでの英樹はテレビで全部見ていました。でも英樹のスイング、ゴルフを近くで見ていたわけじゃない。米ツアーでは一緒に回ったことがないから「現場で何が起きているんだろう」と。でも、全英オープンは仕方なかったんじゃないかな。英樹の予選ラウンドはプレーした時間帯が悪くて不運だったと思う。…とはいえ、おれは英樹の“悪いところ”が分からないんだよな。いつも英樹は、自分が何をやっているのかを把握しているはずだと思っているから…。悪くても、何が原因か分かっているものだと思っていた。

松山:そう見られるのは、うれしいんだけど…でも、分かんなかったんだよね、自分が。あの時期は「何をやってんだろう?」って感じだった。

―マスターズ直後にクラブセッティング、スイングをチェンジしました

松山:クラブは関係ないと思うんです。「全米プロ」ですべてクラブを戻して良くなった(メジャー自己最高位の4位)から、そう思われるのも仕方ないんだけど…。やっぱりクラブじゃなくて、基本的には自分自身が問題だったと思う。クラブを戻した時期と、成績が出たのが重なったのは、たまたまですよ。でも自分自身が不安で、自信が持てないときに、クラブを替えるものじゃないなって。そこはすごく勉強になった。全英で予選落ちして、土曜日に(フロリダの)自宅に帰って、日曜日にどうしようかな…とりあえずクラブは戻してみようと。スイングも一回、イメージを元に戻してみようと決めた。そこから良い練習ができて、フィーリングも良くなったんだ。

「一回、英樹の中に入ってみたい」
――石川遼

石川:あのさ、英樹は自分のスイングのチェックポイントって、長い間、変わらない?おれの場合、バックスイングでの肩の入り方とか、その瞬間の景色とか、自分の中で気を付けていることがあるんだけど…。

松山:おれはその時々で結構、変わってるよ。けれど自分の中で左手リードなのか右手リードなのか、とか根本のところは変えていない。調子が落ちてきたときに(細かいチェックポイントが)変わるんだ。「いまは上半身だけを意識しよう」とか「いまは下半身を意識すれば大丈夫だな」とか…。でも、それも上手くいかないときがある。「日本オープン」なんてそうだよね。一緒に回った予選2日間は、どうやって打てばいいか、まったく分からなかったんだ。

石川:苦労していた感じだったね。

松山:それがさ、初日、2日目が終わった後の練習場で、兼本貴司さん(日本ツアー2勝、46歳のベテラン選手)の練習を見ていたら「あ、これかな…」と思うところがあったんだよね。そのイメージを持ってドライビングレンジで打ったら、メチャクチャ良い球が出てさ。久しぶりに気持ち良く打てるなあと思った。「あ、こういう感じかな」って、つかんだんだ。

石川:すごいね、それは!

松山:まあ、最終日はフィーリングがまた悪くなったんだけど…そこでなんとなくつかんだから、そのあとの試合もまずまず良くなった。兼本さんの球、やばいよ。7Iで200yd打つんだよ。しかも、おれの9Iくらいの高さのボールで。また飛距離が伸びたって言ってたし。

石川:おれも何回も一緒に回ったことがある。“スパーン!”って打つよね。腰のターンがすごい。スイングに“詰まる感じ”が一切ない。

松山:兼本さんが勝ったとき、おれ、ローアマだからね。大洗で(2009年「ダイヤモンドカップ」)。表彰式で並んで写真に写ってるよ(笑)

松山:おれさ、2013年に(左手)親指をケガしてから、一回も自分のスイングのフィーリングが(4日間)良かったことがなくて。アメリカでも、日本でも勝ったけど…。ボールは真っ直ぐいってるんだけど…。

石川:うーん、その感覚が分かんないんだ!(笑)。一回、英樹の中に入ってみたいんだよね…スイング中に「うわ、違う!」って思っても、真っ直ぐボールがいく感じ…。

松山:でもさ、“自分の理想の球”ってあるじゃん?おれは1Wだったら、フェアウェイのセンターから5yd右にボールを出して、ドローしてフェアウェイセンターにキャリーするのが理想なの。

石川:そうなんだ。

松山:それが、ちょっと(ドロー回転が)かかりすぎて、左のフェアウェイに落ちる。フェードを打つときは、体が少し逃げて右のファーストカットくらいなら仕方ない、という状態が最高のイメージで、理想。でも、いまは真ん中を狙ってフェードかドロー、どちらかを打って、フェアウェイに残ってくれればいいやというくらい。(許容できる)幅はそんなに極端に広くはないんだけど。

「おれは切り返しのタイミングだけで勝負している」
――松山英樹

石川:その、自分を許せる幅が、英樹はなんでそんなに狭いのかな?と思うんだよ。

松山:スイングのタイプによるんだと思う。おれはあまりインパクトでのポイントがなく打つタイプ。(トップでの)“切り返しのタイミング”だけで勝負している。それがうまくいかなかったら手を離す。飛ばしにいったら、曲がるし。

石川:確かに…おれが英樹と同じスイングをしたら、絶対に飛距離が落ちてしまう。英樹はフェースの開閉がすごく少ないスイング。作ったタメを、ボールのすぐ手前でバーンとリリースしていくタイプ(リストターン型)ではない。だから、曲がりが少ない。おれは“そこ”に頼って飛ばしている。でもおれは、そこのタイミング、ポイントがまだ、しっかりつかめていない。ショットが良かったときに、なんで良かったかというのがハッキリしていないんだ。

松山:遼って、やっぱりそのポイントが大事なんだと思う。うまくポイントをつかめればな…って。「日本オープン」の2日目、あのものすごく狭いフェアウェイをとらえ続ける力が、本来はあるわけだから。例えばこの前(ワールドカップ前の事前練習中)の最後の方は、本当に良いスイングをしていた。

石川:「いまのは良かったよ」って英樹から言われたり、そういう話はワールドカップで初めてしたね。でもそのとき、おれの中では“良い感覚”が確かにあるんだけど…切り返しのときに「あ、一本になった」とか「どこも止まらず、丸く振れている感じ」があったけれど、その感覚がハッキリしていない。

松山:遼のスイングは、もともとプロになったときもすごく好きなスイングだった。いまだって、振りちぎったわけでもないのに、試合でおれと同じくらい距離が出るときがあるでしょう。あのくらいで振れても良いのにな、って思うんだけど。でも、アメリカツアーにいるとね…「あと5yd飛ばせば、そのバンカーを超えるんだけど…」って思うときは誰にでもある。飛ばしたい思いから、歪みができて、体にも負担が来る。

石川:そうだね。犠牲にしなきゃいけないものがある。分かっていてもそうなっちゃうんだよね…

松山:そこは本当に難しい。おれもそうだもん。(松山の中では)ラクをして飛ばそうとして、(リストで)タメを作って、開いちゃったり…なんてことがあるよ。

「もっとワガママに。自分基準に」
――松山英樹

石川:英樹はいま、世界で一番強い。おれなんかが言うのはおこがましいんだけど、1Wからパターまで、隙がまったくない。やらなきゃいけないときに、それをやる。それを生み出す集中力が一番だと思う。例えば、人間の怒るときのスイッチって瞬間的に入るじゃないですか。そういう感じで、英樹はスイッチが切り替わる。流れが悪くても「この1打で絶対に流れを変えてやる」というのをすごく感じる。大抵の人は、それに技術がついてこないんだけど、英樹にはそれだけの練習をしている裏付けがある。自分の思ったところにクラブを入れられたり、ボールを運んだり。気持ちと技術がシンクロしているのを見ると、すげえな…と思う。

松山:技術がどうかは分かんないよ。自分のフィーリングとして、理想のショットができていないわけだし。でも、最近は「自分はできるんじゃないか」「やるべきことができれば、結果はついてくるんじゃないか」と思えるようになった。上海(HSBCチャンピオンズ)もそうだった。他の人どうこうじゃなくて「自分がやりたいことを貫き通せばできるんだ」というのを、ちょっと思ってきた。人に合わせるんじゃなくて、もっとワガママに、自分を基準にしてやったほうがいいかな、とすごく思ったんだ。

―それは自信と言うべきもの?

松山:みんなに「もっとできるでしょ?」と言われたり、高い評価を受けたとき、前は「いや、おれ無理だよ」って思ってたんですけど…。最近は逆に「できる」と思い込んだ方がいいのかなって思い始めた。パワーランキング(試合ごとに発表される米ツアー公式サイトの優勝予想番付)で2位とか、1位とかになって、「おれ、無理だよ。こんなコースで…」って思ってたんだけど、「できるんじゃないか?」とプラスに捉えたほうがいいんじゃないかって。

石川:もともとはマイナス思考?

松山:かなりね。マイナス思考だと思う。マイナス思考だから、それ以上マイナスに行かないように予防線を張っていたというのはある。

石川:自分は絶対プラス思考だと思う。でもね、プラス思考と楽観的なのは違うんです。おれの理想は…練習場では、自分は下手だと思って練習をする。コースではうまくいく、勝てると思って試合をしたい。でもそれが逆転しちゃうときが、おれにはある。練習場で満足して、コースで苦労したり…。それはプラス思考ではなく、自分への甘さなのかもしれない。英樹を見た人はみんな「なんでそれで納得しないの?」と思うけれど、自分の場合は周りが納得したら、おれも納得しちゃうっていう。弱さを、すごく自分自身に感じます。

松山:自分としては、他の人の方が厳しくやっているんじゃないかって思うよ。自分には、自分の基準があるだけ。遼は間違いなく、量的にもたくさん練習している。取り組んでいることも質が高い。(弾道計測器で)数字をそろえて「いつもとこのくらい違う」という作業を丁寧にやっているでしょ。おれには、それはやろうとしてもできない。ついていけないんだ。同じようには打てない、数字はコントロールできない、と思っているところもあるからね。でも、(石川が取り組んでいるようなことが)できないから、自分のフィーリングだけはなんとかしたい。1Wを替えるときも、数字は参考基準にはするけれど、フィーリングを優先したいんだ。そういう意味で、今年は全米プロの4日間は良かったなと思う(メジャーで自己最高の4位でフィニッシュ)。パットは入らなかったけど、フィーリングが良かった。自分にとっては最高の4日間だったと思う。

―松山選手はいつも自分に厳しいコメントを並べる

松山:まあ、調子が良くなったら良くなったで、求めるものは大きくなりますからね。成績がついてきても、自分の中で打てないショットが増えると、求めることが上になりすぎて…「まだ良くない」ということになるわけです。ほんとにどん底、悪いときに良い成績は出ませんよ(笑)

日米で年間5勝という圧倒的な戦績でゴルフファンを熱狂させた松山選手。一方で石川選手は今年、腰椎の故障で長期離脱を強いられる期間を過ごしました。2017年はプロ10年目。Round2ではその苦悩の1年に迫ります。

聞き手・構成/桂川洋一
撮影/田辺安啓(JJ)

ARCHIVE

PROFILE

松山英樹
Hideki Matsuyama(24)

1992/02/25 愛媛県生まれ
4歳でゴルフを始め、中学2年で愛媛から高知・明徳義塾中に転入。明徳義塾高を経て東北福祉大に進学する。2011年の「マスターズ」でローアマチュアに輝き、プロ転向1年目の13年に日本ツアー賞金王戴冠。14年の「ザ・メモリアルトーナメント」で日本人史上4人目の米ツアー初勝利を飾った。日本ツアー8勝、米ツアー3勝。

石川遼
Ryo Ishikawa(25)

1991/09/17  埼玉県生まれ
東京・杉並学院高入学直後の2007年5月、日本ツアー「マンシングウェアオープンKSBカップ」を制し、15歳245日の史上最年少優勝記録を樹立。“ハニカミ王子”旋風は社会現象になった。現役高校生プロとして09年に日本ツアー最年少となる18歳で賞金王を戴冠。13年に主戦場を米ツアーに移した。日本ツアー14勝。        

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