<選手名鑑239>ラッセル・ノックス(後編)
■ノックスの父は米国人 姉はラジオの人気パーソナリティー
ラッセル・ノックス(31)は1985年6月21日、スコットランド北西部のインヴァネスで生まれた。その北部はネッシーで話題になったネス湖がある。放牧の羊がゆったり歩く牧場が広がり、ゴルフ場でも羊を飼っているところも少なくない。羊がグリーンに入らないよう低い位置に電線が張り巡らされ、ゴルファーと羊が共存共栄、景観も数百年前の雰囲気を残し、古のゴルフに思いを馳せながらプレーできる特別な地域だ。
ノックスの父親はカリフォルニア州サンディエゴ生れの米国人で、21歳の頃に両親と一緒にスコットランドへ移住した。スコットランド人の母と結婚、姉ダイアンと彼が誕生した。両親は仕事をリタイア後に米国へ移住し、現在はジャクソンビルに住んでいる。姉は現在もスコットランド在住で、西部グラスゴーにあるラジオ局の「クライド1」という番組のパーソナリティーとして活躍中だ。本名はダイアン・キャンベル。番組では“ノクシー”が愛称だ。グラスゴーで彼女を知らない人はいないほどの人気だとか。弟の活躍を願い、番組で弟の話題をトークすることを楽しみにしている。
■小型で巧みなドライビング 米国留学で「BMW」に進化
ノックスはこれまで2度の転機があった。最初はスコットランドで過ごしていたジュニア時代、スペイン開催の試合会場で4歳下、当時10代半ばのロリー・マキロイに遭遇したことだった。練習場に行くとただ一人打球音の違う選手がいた。体が小さいのにアイアンショットの弾道の高さも、ドライバーの飛距離も、自分より優れていることに愕然とした。ノックスは高校卒業後の進路をプロ転向か進学か決めかねていたが「現状ではプロとしても通用しない」と自覚。以前からオファーがあったフロリダ州ジャクソンビル大学に奨学生として留学することにした。
第二の転機は大学生の時。学生リーグで好成績がなく2年ほど経過した8月の「全米アマチュア選手権」に出場するロイド・ソルトマンにキャディを頼まれ、会場のミネソタ州ヘイゼルティン・ナショナルGCに出掛けた。ソルトマンもスコットランド出身で、ジュニア時代からの友人だ。予選ラウンドで一緒にプレーしたのはイングランドの若きヒーロー、当時16歳のオリバー・フィッシャーだった。彼のパワーや洗練されたゲームマネージメントを目の当たりにし「もっと頑張らなければ。温暖なフロリダでのんびり過ごしている場合ではない」と強い刺激を受けた。
ノックスはプロに転向したものの、どのツアーにも出場権がなく、フロリダのゴルフ場でカート係などをしながら練習を重ねミニツアーに出場した。奮闘の日々を送ったが、希望に向かう苦労は楽しく感じられた。その頃の彼につけられた愛称はドイツ車の“BMW”。小型(178cm、70kg)でも、巧みなドライビング(ショット)という共通点から、そう呼ばれるようになった。ノックスのゴルフは快適ドライビングを続け、08年からフーターズツアーに参加し、3年間プレーした。11年のウェブドットコムツアー出場権を獲得。ツアー初年に1勝を挙げ、賞金ランク12位に入って、翌12年のPGAツアーのシード権を獲得した。
■「モッテない男!?」絶妙なバッドタイミング
ノックスの存在感は“薄い”印象が否めない。2015年の世界選手権シリーズ「WGC HSBCチャンピオンズ」でツアー初優勝、翌16年の「トラベラーズ選手権」で2勝目を挙げ、世界ランクも上位に浮上したにもかかわらず、なぜかインパクトに欠けていた。その理由は、ノックスの快挙は、なぜか同日にビッグニュースが起こり、脇におしやられていたからだ。「トラベラーズ選手権」最終日、首位のダニエル・バーガーに3打差でスタートしたノックスは、「68」でプレーして通算14アンダーで逆転優勝。主役は優勝者のノックスのはずだった。だがよりによってその同日、ジム・フューリックがツアー史上最少スコアの『58』をマーク。報道はフューリック一色に染まり、逆転劇は驚くほどひっそりしたものだった。
さらにウェブドットコムツアーで史上5人目の『59』を達成した時も、主役を譲ってしまった。13年、アイダホ州ヒルクレストCC(パー71)で開催の「アルバートソン・ボイシー・オープン」2日目に、2イーグル8バーディを奪い、『59』を達成。優勝すれば『59』達成の勝者として強い印象を残すはずが、最終日は2つしかスコアを伸ばせず、通算19アンダー、優勝のケビン・トゥウェイには4打の大差をつけられ静かに試合は終了した。実力はあるもののニュースメーカーにはなりきれなかったのだ。
とはいえ、強運なところもある。2015年の「全英オープン」で前年覇者のマキロイが足首の負傷で欠場し、繰り上げ出場が決まった。初優勝の「WGC HSBC-」はJ. B.ホームズが欠場し、開幕直前に出場権を得ての快挙達成と、ビッグステージへのチャンスをしっかりつかんだ。抜群の安定感や粘りと気骨のプレーを続け、次の快挙こそタイミングにも恵まれ主役になってほしい。