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<選手名鑑161>クリス・カーク

■ ツアー4勝、昨季ナンバー2、なのに…

クリス・カーク(30)は今年のコロニアルで逆転優勝を飾った。30歳にしてツアー4勝の実力者だ。コロニアル優勝で世界ランク16位に浮上し、昨年はポイントランクでの年間王者を逃したが、堂々の2位につけた。今年も安定したプレーを続け、王者を狙える好位置にいる。身長191センチの長身で、薄っすらアゴひげを蓄え、ワイルドな雰囲気を漂わせている。クラブを魔法の杖のごとく操り、アクロバティックなテクニックを実戦でも使い、話題になることも度々だ。左打ち、ヘッドを逆にしてバックソールで打ったり、後ろに飛ばしたりと、トリックショットを涼しい顔で披露する。ツアー4勝、実績も個性もあるのだが、なぜかインパクトに欠ける・・・それがカークの個性かもしれない。

彼が何となく目立たない理由とは――。まず言えるのは物静かな性格であることだろう。話し方も穏やかで、抑揚もあまりない。マスターズや全米オープン勝者のファジー・ゼラー(63)のように、ウィットに富んだジョークを言うなど想像もできない。質問には常に表情を変えることなく、真っ正直に、最小限度の言葉で答える。プレー中も、ド迫力のガッツポーズを見せることはない。大きなミスをしても、ロリー・マキロイのようにクラブを放り投げて問題になることも、罰金制裁を受けるような行為も、絶対にしない。拍手や応援には軽く手をあげ「サンキュー」を繰り返す。じっくり見ていないと、どこがどうすごいのかを見逃してしまいそうだ。

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■ ラブ家から継承 ゴルフはジェントルマンのゲーム

これはゴルフのコーチとして慕っているマーク・ラブの影響だ。マークはデービス・ラブIIIの弟で、一時期はキャディとして、兄弟コンビで転戦していた。その後、兄が地元ジョージア州セント・サイモンズ・アイランドで毎年主催するPGAツアーの試合「マックグラッドリークラシック」のディレクターとして、イベントを取り仕切っている。兄弟の父ラブJr.は元ツアープロとして活躍し、飛行機事故で亡くなるまで、名コーチとしても知られる存在だった。マークはコーチとして父を継承し、実力を発揮。キャディの経験も加わり、多くの選手たちが彼の元に集まってきた。

カークもプロ転向2年目の、迷いが生じていた時期にマークに助言を求め、さっそくチューンナップをはじめた。「ナチュラルドローに戻してみたら、ショットが安定し自信が蘇った」。スイングに息吹が吹き込まれ、カークの躍進が始まった。「ゴルフはジェントルマンのゲーム」とマナーやエチケットについても時間を割いて話した。これはラブ家の家訓のようなもので「プレー中は絶対おどけない」、「ふざけない」、節度ある姿勢でプレーすべきと説いた。それがカークの性格にフィットし、大いに共感した。スポーツ心理学者の中にはテンションを上げるために「無理にでも派手なガッツポーズをとれ」と指導することもあるそうだが、それとは対極の考え方だ。

生真面目な彼だが、ゴルフを離れるとかなり楽しい男で、まったく違う一面を見せるという。20勝のラブIII、2009年全米オープン覇者のルーカス・グローバーとは、サーフィン仲間だ。パラシューティング、バンジージャンプもスリルがたまらないという。音楽も好きで自宅ではピアノの練習に励んでいる。試合から離れた時の弾けた表情をちょっと見てみたい。

■ ジョージア大学センセーション

カークは1985年5月8日、テネシー州ノックスビルに生まれたが、すぐに転居しジョージア州で育った。ゴルフの名門ジョージア大学に進学したが、それまでPGAツアーで活躍した選手はツアー4勝のチップ・ベック(58)が最も知られた選手だった。カークがプロ転向した2008年に、母校のあるジョージア州で今田竜二がツアー初優勝を飾って、空気が変わり始めた。続いて大学時代に今田とチームメイトだったバッバ・ワトソンが10年にツアー初優勝。カークもそれに続くように、翌11年にツアー初優勝。そして12年には、ワトソンがジョージア州開催のマスターズで優勝を飾った。ジョージア大学への注目と評価は急上昇していった。

その後もハリス・イングリッシュラッセル・ヘンリーブレンドン・トッドブライアン・ハーマンら後輩たちも次々と勝利し、カークの1年先輩であるケビン・キスナーは4週間で2回もプレーオフに進出するなどブレークの気配濃厚だ。“ツアーはブルドッグ(ジョージア大学のマスコット)に占拠された!?”と言われるほどの最強軍団になった。この現象をリードしたのがワトソンとカークだった。

■ 地味な凄味

カークは昨季ポイントランク2位だったが、実は十分に年間王者を狙える位置にいた。プレーオフシリーズ第2戦、ドイツバンク選手権で優勝し、その時点で同ランク1位に浮上した。最終戦を好位置で迎え、年間王者に最も近かったが、優勝も年間王者も、ビリー・ホーシェルにさらわれてしまうことになる。こういった経験は初めてではなく、2010年、下部ツアーでも賞金王を狙える絶好の位置にいたが、左手首を負傷して最後の2試合を欠場。賞金ランク2位と無念の結末を迎え、実力は折り紙つきだが、勝負強さには疑問符がついたままだった。

だが、5月のクラウンプラザインビテーショナルで、そのイメージを払拭する圧巻のプレーを見せた。優勝争いは12年の年間王者ブラント・スネデカー、マスターズ勝者のジョーダン・スピースとの三つ巴の優勝争い。その中でカークは、15番(パー4)、フェアウェイからの第2打を迎えた。ピンの位置は突き出たグリーンの右端で、右手前はラフと深いバンカー、奥はすぐ池という厳しい状況だった。カークは9番アイアンを手にし、ピンをデッドに狙い1メートルにつけるスーパーショットを披露。そのホールをバーディとし、混戦から1打抜け出した。

このショットは彼の高度な技術と精神面のタフさを強烈に印象づけた。1打リードで迎えた最終18番、外せばプレーオフという、強烈にプレッシャーのかかる2メートルの下りのパーパット。このクラッチパットをしっかりと沈め優勝をもぎ取った。この勝利は随所に勝負強さを見せつけ、カークのイメージを根底から覆した。地味だけど凄い!見れば見るほど、知れば知るほど夢中になるような名選手となる予感だ。

佐渡充高(さどみつたか)
ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。

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