今週は足元に注目 石川遼は新スパイクでマレーシア初登場
2014年 CIMBクラシック
期間:10/30〜11/02 場所:クアラルンプールG&CC(マレーシア)
注目の5ルーキーズ/アダム・ハドウィン<佐渡充高の選手名鑑 137>
■ 今季PGAツアー 優先順位1位でスタート!
カナダ期待のアダム・ハウィン(26)が、優先順位1位のステータスでいよいよPGAツアーに登場した。昨季ウェブドットコムツアーで2勝、2位と3位がそれぞれ1回、トップ10は、同ツアー選手最多の9回に及ぶ。賞金王になったことで、今季PGAツアーにおける出場条件で最優先選手となった。
下部ツアーから勝ち上がり、出場権を獲得した選手にとってはこの“優先順位”は大きな影響を及ぼす。各試合で、フィールドが満たない場合に優先順位上位から出場繰り上げになるため、場合によっては開幕直前までプレーできるか否かが決まらないこともある。昨シーズンの開幕時、石川遼は優先順位13位でシーズンをスタートしたが、2月の「フェニックスオープン」では、初日前夜に繰り上げ出場が決まり慌ただしかった。5月の「ザ・プレーヤーズ選手権」では優先順位が1位だったので、現地フロリダに赴き練習ラウンドもこなし準備万端で待機していたが、同試合は第5のメジャーだけに初日になっても欠場者が出ず、残念ながら出場できなかった。選手たちの与えられた条件や立場は実績、成績で異なり、ハドウィンは開幕から圧倒的有利な立場で参加できる。「アーノルド・パーマーインビテーショナル」や「ザ・メモリアルトーナメント」などの招待試合を除く、PGAツアーの試合ほぼすべてに出場が可能。つまりチャンスの幅も広がるのだ。
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■ ハドウィン=安定感
ハドウィンといえば“安定感”という言葉がすぐに思い浮かぶ。昨季ウェブドットコムツアーでの成績は、シーズンを通して安定していた。2戦目となった3月の「チリオープン」でツアー初優勝を飾ると、その後もコンスタントに優勝争いを繰り返した。最終4試合のファイナルズでも優勝、10位、7位と3試合をトップ10フィニッシュし、“有終の美”で締めくくった。
昨季のスタッツからも「安定感」が浮かび上がる。平均飛距離297ヤードでランク44位、FWキープ率68%でランク39位、パーオン率は69%で64位、パットも23位とウィークポイントがほとんどない。身長175センチ、71キロと小柄だが、2勝とも逃げ切り優勝で、粘り強さも持ち味だ。今後は逆転の勝ちパターンも加わるとかなり手強い存在になりそうだ。
■ 将来性に集まった投資6万ドル それを元手に海外へ
ハドウィンは1987年11月2日、カナダのサスカチェワン州モースジョー市で生まれた。同州は冬の寒さは厳しいが、広大な麦畑など豊かな自然が広がり、美しいゴルフ場も街の誇りのひとつだ。グラハム・デラエや期待の新人ニック・テーラーらも同州出身と、カナダ人ゴルファーの出身地として注目のエリアである。父親ジェリーはティーチングプロで活躍し、ホームコースのモーガンクリークGCで勤続30年。ハドウィンは2歳から父の指導でプレーをはじめたが、少年時代はサッカー、バスケットボール、野球にも夢中だった。中学生の時にバスケットボールで大ケガを負ったあと、ゴルフに専心。大学は米国ケンタッキー州の州立ルイビル大学に留学し、09年の卒業と同時にプロ転向した。
カナダに戻り地元ツアーを中心にプレーを始めたが、獲得賞金だけでは生活ができず、海外へ活路を見出すしかなかった。莫大な転戦費用が必要になったが、幸い彼の将来性を見込んで投資する企業が現れ、加えてホームコース関係者6人もポケットマネーを出資。合計約6万ドルが集まり、出立に至った。
最初は米国のミニツアーを転戦し、その後、南米や南アフリカツアーにも挑戦した。違う土地、芝、風など様々な環境が彼をたくましく育てていった。そして2010年、カナディアンツアーの最終戦で、同じカナダ出身のリチャード・リーをプレーオフで制し優勝。翌2011年3月には南米コロンビアの試合で2位に6打差をつける独走で優勝を飾った。同年6月には「全米オープン」に初出場しメジャーを経験。この頃には投資企業や友人からの出資額の75%を返済していたという。
■ カナダの悲願 ナショナルオープンでの母国優勝
メジャー出場経験後、翌月7月の「カナディアンオープン」で、もうひとつの劇的な経験をした。ハドウィンは最終日、57年ぶりのカナダ人優勝に向け母国の熱い期待を受けていた。5アンダーで首位のボー・バンペルト(米国)に1打差2位でスタートしたが、スコアを2つ落として通算2アンダー。優勝のショーン・オヘアー(米国)に2打差の4位タイで競技を終え、悲願の優勝は叶わなかった。
カナダ勢はタイトル奪取にメジャー以上の気合で挑んできた。2003年「マスターズ」で、カナダ人初のメジャー勝者となったマイク・ウィアは、04年の「カナディアン-」で接戦の末、ビジェイ・シン(フィジー)に敗れた。その瞬間、ギャラリーの大声援は悲鳴に変わったようだった。05年にはスティーブン・エイムズが7位、08年はまたもウィアが奮闘したが5位タイで終了。カナダの夢と希望は2015年に持ちこされている。ハドウィンの目標は、メジャーや世界選手権での優勝はもちろんだが、「カナディアン-」での優勝だ。次の開催まで約8カ月。その頃、彼がどのような選手に成長しているか楽しみにしたい。
- 佐渡充高(さどみつたか)
- ゴルフジャーナリスト。1957年生まれ。上智大学卒。大学時代はゴルフ部に所属しキャプテンを務める。3、4年生の時に太平洋クラブマスターズで当時4年連続賞金王に輝いたトム・ワトソンのキャディーを務める。東京中日スポーツ新聞社を経て85年に渡米、ニューヨークを拠点に世界のゴルフを取材。米国ゴルフ記者協会会員、ゴルフマガジン「世界トップ100コース」選考委員会国際評議委員。元世界ゴルフ殿堂選考委員。91年からNHK米ゴルフツアー放送ゴルフ解説者。現在は日本を拠点に世界のゴルフを取材、講演などに飛び回る。