ジャスティン・トーマスの父のウェッジに刻まれたセンチメンタルな物語
マイク・トーマスが息子であるジャスティンに付き添う姿は、PGAツアーの練習ラウンドではおなじみの風景である。
もちろん、それはマイクがかつてのフェデックスカップ王者の父親として、さらにはスイングコーチとして、二重の職責を果たしているからであり、彼はジャスティンのスイングを観察する際、ウェッジを握っているところをよく目撃されている。
このマイクのクラブを巡っては、親子の強い絆を示す特別なストーリーがある。
練習日の長い一日の手持ちぶさたを解消するため、ジャスティンが練習する傍ら、かつてマイクは息子のウェッジを握っていた。これには問題がひとつあった。この習慣は息子をいら立たせていたのである。
「というのも、父は常に、僕のバッグからクラブを出して持っていずにはいられなかったんだ」と、トーマスはGolfWRXに語った。
「そして、正直に言って、それは僕をイラつかせていたんだ。僕がチップショットをしようと思うと、父はいつも56度か60度(のウェッジ)を手にしていたから。そうなると、僕はグリーンの反対側までクラブを取りにいかなきゃいけない。そんなことが毎週起こっていたので、僕は“もうこれはうんざりだ。余分にウェッジを持ち歩こう。これは父さんのだから、僕のウェッジには触らないで”みたいな感じになったんだ」
彼らの証言によると、こうして物語の全てが始まったのである。
ジャスティンが自分の古くなったタイトリスト ボーケイSM6ウェッジを、いつも持って歩く用にマイクへ贈ったのは2019年のことだった。マイクは今でもこのクラブを持って歩いているが、クラブの見た目は少し変わった。
2019年のリビエラでの「ジェネシス招待」以降、PGAツアーにおける多くの天才的なウェッジの刻印の仕掛け人であり、タイトリストのボーケイウェッジのレップであるアーロン・ディルは、ジャスティンとマイクが分かち合った重要な思い出や大会に関する刻印をこのウェッジに施してきた。
「彼らはこれをウォーカー(歩く用)って呼んでいるよ」とマイク。「最初の刻印はLAでのものだったと思う。“Meat Coma(肉食べ過ぎ)”というやつだね。我々は毎年LAではベイビーブルースのBBQ店へ行くんだけど、2人ともいつも動けなくなるまで肉を食べてしまうんだよ」
「そこでAD、ボーケイとタイトリストで仕事をしているアーロン・ディルが“Meat Coma”と刻印したんだ。たしか“Meat Coma 2”というのも、どこかにあったはずだよ」
この他には、トレードマークでその大会のことを表した刻印もあり、メモリアルトーナメントの“Milkshake Invitational(ミルクシェーク招待)”もその一例で、これは大会がミュアフィールドビレッジのクラブハウスのミルクシェークで知られていることに由来する。
他にも、“COVID-19 Quarantine(新型コロナウイルスの隔離期間)”や“Raising Money for Kids(子どもたちへ募金)”といった思い出のものも。最近追加した特筆すべき刻印は“2022 PGA Championship(2022年全米プロゴルフ選手権)”で、ジャスティンの勝利を祝福して“Champion(チャンピオン)”の部分だけ、別の色で強調されている。これはマイクのお気に入りのひとつである。
これまでマイクから刻印を依頼することは一度もなかったとのことだが、ディルは大会でマイクを見かけると、ウェッジに然るべきアップデートを施すのである。ただ、これにはひとつだけ問題がある。クラブの余白がなくなり始めているのだ。
「彼はこういうことに関して、素晴らしい想像力を持っている」とマイクはディルについて述べた。「どういうわけか、彼は(ジャスティンの)行った場所を覚えていて、“よし、じゃあスコティッシュオープンと全英オープンの刻印を入れなきゃいけないし、プレーオフの刻印はそこへ入れよう”という具合でやってくれるんだ。どういうわけか、彼はそういうのを覚えているんだ。私は覚えていないがね」。
ジャスティンもまた、思い出を振り返ることを楽しんでいる。「(刻印を)見るのが好きで、思い出を振り返って笑うんだ」と言った。
スペースの問題を解決するため、ディルは現在、ウェッジの頑丈さを損なわずにクラブフェースに刻印できる器具の製作に取り組んでいると言った。もちろん、これは彼がこれまで競技用のクラブを組み上げる際に一度もやったことのないことである。
いずれにせよ、このウェッジは、ツアーにおける他のどのクラブよりもストーリーを語ってくれる唯一無二のクラブなのである。
(協力/ GolfWRX, PGATOUR.com)