兄の急死を乗り越えて 2位6回のチャッペルが30歳で初勝利
◇米国男子◇バレロテキサスオープン 最終日(23日)◇TPCサンアントニオ AT&Tオークス(テキサス州)◇7435yd(パー72)
幾度となく味わった挫折を乗り越えた。2位になること6回。“シルバーコレクター”だったケビン・チャッペルが、プロ10年目で初優勝を挙げた。最終組で出て首位タイで迎えた18番。脳裏によぎった過去の自分を振り切り、決めれば勝てる2.5mのバーディパットを落ち着いて流し込むと、何度も何度も拳を振り下ろした。
昨シーズンは4試合で2位だった。シーズン最終戦「ツアー選手権byコカ・コーラ」ではプレーオフ敗戦も味わった。実力はありながら、タイトルと無縁の男―。そんな印象を払拭する勝利に「僕のキャリアがようやく前に進んだような感じだ」と安堵した。
プロ転向した2008年。シード権のなかったチャッペルは、夏場のデビュー戦後、当時10月開催だった「テキサスオープン」が2戦目の出場となった。「僕がプロになったばかりのころ、(初出場から)2カ月間空いてやっとまたPGAツアーに出られた、と思ったのがこの大会だったんだ」と懐かしんだ。
父の手ほどきで5歳のときにゴルフを始めると、才能はすぐに開花した。地元のジュニアタイトルを次々と獲得した。急成長を遂げた裏には、5歳上の兄スティーブンさんの存在があった。カリフォルニア州の大学に通っていた兄は時間を作ってチャッペルの試合に応援に駆けつけるなど弟想いだった。だが、2007年に糖尿病の心臓疾患で急死した。
悲しみに暮れ、兄のイニシャルをボールに記してゴルフを続けた。何かを振り払うかのように練習に励んだ。当時を知るコーチは「悲痛な経験を通して、ケビンは毎日が当たり前のように訪れるものではないと知った」と思い返した。
30歳で手にした初勝利。18番グリーンでの表彰式で祝福を受け「やっと勝てたよ」と微笑んだ。30度を超える炎天下になるサンアントニオの4月。心地よい風が吹き抜けたこの日、カップを手に見上げた空は真っ青だった。(テキサス州サンアントニオ/林洋平)