2011年 全英オープン

三田村昌鳳が語る全英オープン(2)

2011/07/12 21:08

遼、ワトソン、ファルド…、プロにとってのリンクスコース

歴史的勝利にあと一歩まで迫った2009年、ターンベリーでのトム・ワトソン(Andrew Redington/Getty Images)

トム・ワトソンは「最初リンクスコースでプレーしたときは、嫌いだったんですよ(笑)。目指していた弾道やゲームの構築とは異質でしょう。けれども考えてみれば、ボールを転がしてグリーンに乗せていくというのは誰でも経験していることなんです。そう、子供の頃は、そうやってゴルフを覚えたわけです。いわばリンクスを経験したことによって、自分のゴルフの幅が広がりました。もちろんゲームの幅も奥行きも変わりました」と語っていた。

石川遼は、リンクスでの全英オープンが好きだと語った。

「自然に敵対心を持ちすぎるとどんどん難しくなる」と言った。どうやってめまぐるしく変化する自然の中で自分のゴルフをするかが大きなテーマだと言った。

1978年ミュアフィールドでの大会で、ファルドが優勝したときのことである。14番ホールを終えたファルドは、4打差離していた2位のジョン・クックに逆転され、むしろファルドは2打遅れをとっていた。そして15番ホールの第2打で生涯で最高のショットを放った。5番アイアンのハーフショットだった。ピン2メートル弱につけてバーディをとり、形勢が逆転した。ファルドは、最終ホールでウィニングパットを沈めることができたのである。そのパットを沈めたときに、むしろ崩れ落ちるようにうなだれた。精も根も尽き果てたかのように一瞬肩を落とした。そして体の奥底から振り絞るように鳴咽した。

「14番ホールを終えて、最終ホールまで自分の人生のすべてを出し切ろうと思った。今まで歩いてきた人生のすべてを……」

ファルドは追いつめられて、最後に残された決断は、戦う、格闘することではなく、自分の人生を出し切るということだった。ファルドは、人生の中で最も苦しい立場に立たされたとき、最も人間味のある決断を下したのだと思う。自分をすべて大自然の中にさらけ出してしっかりと根を生やすことだった。それが、ともすれば大自然の中で無力にも吹き飛ばされてしまう人間の最後の知恵だった。ニック・ファルドに、大自然が手をさしのべてくれた。自然と戦うのではなく、自然と調和して自分の技量、叡智を使いこなす。それがゴルフの本質かも知れない。技術におごらず、理性と感性と人間味でゴルフする心……全英オープンの面白さは、いつも人間味、人間力、そして自然と、どう取り組んでいくかにあるし、1打のキックの行方で変わる運と不運、それも人生じゃないか、と教えてくれる大会だ。

2011年 全英オープン