2024年 全英オープン

記憶<先週の一枚>フォトグラファー今井暖

2024/07/24 11:44

歳を重ねていくとかつての記憶がおぼろげになっていく。人間の脳にとどめておける思い出の量はある程度決まっているようだ。20数年前、バックパックを担いで訪れたここヨーロッパの景色も少しずつ薄れていっている。

写真を残す事は人生の記録でありながら、時には記憶を呼び起こす手助けにもなる。みんなが写真を撮るようになった昨今、その瞬間や場面を記憶しようとする事よりもスマホで撮ることに夢中になりがちだ。

ロイヤルトゥルーンの名物ホール、8番グリーンの脇にコースを見渡せる丘がある。フォトグラファーたちが立ち寄るお決まりの場所だ。撮影を終えて移動しようとすると外国人親子が丘を上がってきた。フォトグラファーである父が息子にこの景色を見せようとこっそり連れてきたのだろう。息子は少し緊張しながらもその圧倒的な景色をしばらく眺めていた。

30数年前、父に連れられ初めて行った野球場。スタンドから見下ろした景色は今でも鮮明に覚えている。父もこのフォトグラファーと同じ気持ちだったかはもはや分からない。スマホもカメラも持っていなかった僕は自分の目で選手やボールを夢中になって追っていた。この丘に連れてこられた彼の顔を見ることは出来なかったが、当時の僕と同じように目を輝かせていたことは容易に想像できる。

どちらの父親も自分が愛する景色を見せたかっただけなのかもしれない。けれども、画面を通さず自分の目と体で感じた記憶は僕たちの心の中にいつまでも生きつづけるだろう。

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