「技術以上に大事なもの、それは考え方」 アメリカ挑戦・桂川有人の現在地(後編)
昨年はルーキーイヤーながら初優勝を遂げ、賞金ランキングも堂々の5位に入った桂川有人。今シーズンは目下アメリカ下部ツアーに挑戦中だが、予選落ちが続いていて、思うような成績を出せずにいる。今週の「クラブカー選手権」(ジョージア州・サバンナ)からいよいよアメリカ本土での戦いが始まったが、日本を飛び出て世界で戦う24歳の若者は今、何を思い、何にもがいているのか? その“現在地”を取材してきた。(構成・取材/服部謙二郎)
ちょっぴりホームシック?
桂川にとってはプロになって初の海外挑戦。長距離移動や慣れない場所での生活、言葉の不安など、その心の内が気になるところ。そして彼はいったいどんなモチベーションから海外挑戦を志したのか。再び“桂川ワールド”をのぞいてみよう。
まずは体調管理に関して。
「トレーナーさんに帯同してもらうこともありますが、コーンフェリー(米下部ツアー)まで連れていけないのでセルフケアも多くなります。ですから、体のコンディションが変わって得意なショットも調整が難しかったり、今までズレなかったのがズレたり、その辺も難しい」と、現状はコンディショニングの解決策を模索している段階だ。
また、日本を離れて生活をすることへの不安はないかをたずねると、「もともとフィリピンにもいましたし(高校時代の3年間)、海外は慣れているほうだと思います」と言いつつも、「あ、でも昔よりはホームシックになりやすいですかね」と思わず空を見つめる。
「フィリピン時代は、日本のツアーで食べていけるよう必死でしたし、当時は自分のレベルが低くて日々成長するのが楽しくて…。ゴルフばっかりできるのもうれしかった。でも最近は、ずっとゴルフをしているのでちょっと飽きてきて(笑)。今は職業にもなりましたし、予選通過を考えたり辛い部分もあって、ちょっとホームシックになる時もあります。日本でもできるのに、あえて海外で挑戦していますからね」
本人が言うように、彼ほどの実力があれば国内ツアーでも安定してシードは取れるはず。そこであえて海外進出という選択肢を選んだのは、どんな動機からなのか。
「それはゴルフが好きだから…ですよね。それなら一番レベルが高いところでやりたいし、自分が知らないことを知りたい。それってなんて言うんですかね、好奇心ですかね。PGAってどんなふうなのか、どういうところなのかを知りたい。その心境に近いかな」。おっとりとした話しぶりだが、その会話の内容はギラギラしている。
「下部ツアーからもがいて上(PGA)に行ったのって、今田竜二さんぐらいですよね。実際、PGAツアーの7割ぐらいはコーンフェリー上がりと聞きます。松山さん(松山英樹)とかトム・キムのパターン(スポット参戦でポイントを稼いでシード選手入り)は1割いるかいないか。そう思うと、(コーンフェリーは)PGAとレベルは変わらないですよね。でも『こいつヤベー』という選手は今のところいないですし、今の悩んでいるところをクリアすればイケる気はしています」とコメントは頼もしい。
「まあでも、これまでの試合(中南米の試合が2試合)はコースが微妙で、距離も長くないし、ドッグレッグも多くて自分の飛距離でも刻んだりしていました。ですから“まだアメリカツアーを戦ってない感覚”で、全然ドライバーでバーンというのをやってない(笑)。これからアメリカ本土での試合が続くのでその点は楽しみです」
聞けば、今は課題が多いことで練習量とトレーニングの時間が増え、好きなプロレスの動画を見る時間もないとか。「ゴルフ場でもしっかり練習し、ホテルに戻ってもジムで走って筋トレしてと、けっこう忙しくしています。ハードトレーニングじゃないですけど、強い選手は(トレーニングを)しているって聞きますし、継続してやらないと」
そんなに忙しくして大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?とつい親心にもなってしまうが、「食事はいつも韓国レストランを選びます。味が間違いないですし、元から韓国料理が好きで、好きなお米も出してくれるので」と食生活には困ってない様子で、ひと安心。
桂川有人の今後の戦略とは?
さて、これからいよいよアメリカ本土での戦いが始まるが、目標である「PGAツアー」に向けて何か彼なりの答えは見いだせているのか。
「正直、正解はないと思っています。こっち(海外)に来ると、強い選手は『そこをそうやって攻めるんだ』という驚きがあって、こっちもなんかやらなきゃという気にもなっちゃう。でもスコアを作るなら『ここにおいてセカンド勝負でいいじゃん』という考えもあって、迷ってしまう。日本のコースはドッグレッグが多かったり、バンカーや池のせいで刻んだりすることが多くて、自分もそういうゴルフしかしてきませんでしたからね。どっちが正解でもないんですけど、でも試すばかりで結果が出なくなるのがいちばん良くない。ボギーも癖になるし、成績が出なくなるのも癖になる。そういうので海外挑戦してダメになった選手にもなりたくないし、ほんと難しいスね」と複雑な心境を吐露した。
さらに桂川は続ける。
「自分もナショナルチーム時代、オーストラリアの試合で、自分がそんなに悪いプレーしてないのに相手が上手過ぎて『この人たちに勝てないわ』と思ったことがありました。そのときも(彼らが打つような)この球を打たなきゃダメなのかなって思い、それにトライして結局スイングを崩した。今はそれと似た気持ちになっています」
「でも思えば、松山さんもすごく練習しますし、ミクムさん(堀川未来夢)も毎年成績にムラがなくて、やっぱりうまい人は他の人と考え方が違うなぁって思うんです。道を間違えないですよね。ですから僕も、今は技術うんぬんじゃなくて『考え方が自分をいちばん変える』と思っていて、海外挑戦する中でその道を探っている段階。自分だけの考えだとどうしても限界があるので、いろんな人の話を聞いたり、ネットの情報を仕入れたりして、考えを作る上での参考にしています。ほんと考えひとつでめっちゃくちゃ変わるので、そこをすごく慎重に選んでいます」
まさに、そう自分に言い聞かせるように心境を語ってくれた桂川有人。2年前に三島で初めて会った時よりも、ひと回りもふた回りも成長したように見えたのは気のせいではないだろう。
彼の海外挑戦はまだ始まったばかり。アメリカからの吉報を待つとしよう。