「日本人は“できない”を覆せた」松山英樹がメジャー初制覇で切り開いた未来
◇メジャー第3戦◇マスターズ 最終日(11日)◇オーガスタナショナルGC(ジョージア州)◇7475yd(パー72)
左手から袖を通したグリーンジャケット。西日に照らされながら、満面の笑みで何度も両手を突き上げた。「本当は18番でやりたかったけれど、表彰式でできて良かった」。多くの人が、そして誰よりも本人が夢見た光景は紛れもない現実だ。29歳の松山英樹がゴルフの祭典「マスターズ」を制し、日本男子ゴルフ(レギュラーツアー)に初めてメジャータイトルをもたらした。
ムービングデーの自己ベスト「65」で、4打差をつけて迎えた最終日。10回目の出場でも、初めての最終組でのプレーに独特の緊張感を味わっていた。「きょうは予定よりも早く起きてしまった。いつもなら眠れるが、きょうは寝られなかった。1番ホールのティに立ったとき、トップでいることを考えたらナーバスになってきた」。出だしの1番、3Wでの第1打を右の林に曲げてボギーとし、いきなり2位に1打差に詰められた。
1Wでフェアウェイをとらえた2番(パー5)で落ち着きを取り戻したという。5番で5mのパーパットを強気に沈め、8番(パー5)からは2連続バーディ。5打差に広げて前半9ホールを終えた。
メジャーのサンデーバックナインをトップで迎えたのは2017年「全米プロ」以来。11番から3連続ボギーをたたき、最後に涙したあのときとは違った。1打目を奥のバンカーに入れた12番(パー3)のボギーの後、13番(パー5)では奥から絶妙なチップショットを見せて、2度目のバウンスバック。「後半に絶対に難しくなると思っていた。緊張して簡単にバーディを獲れる状況ではなかった。ひとつずつ、ミスをしないようにやっていた」。2打目を奥の池に入れた15番(パー5)、3パットの16番(パー3)で連続ボギーをたたいて2打差に迫られても、終盤2ホールで持ち前の修正力と勝負強さがよみがえった。
2m弱のパーパットを外し、苦笑いのままタップインさせたウィニングパット。4バーディ、5ボギーの「73」は松山がオーガスタで11ラウンドぶりに喫したオーバーパー。圧勝ムードは最後にかき消され、メジャーの難しさをやはり知った。2017年「WGCブリヂストン招待」以来となる4シーズンぶりのPGAツアー6勝目は、待望のメジャータイトルで飾った。
東北福祉大2年時の2011年、マスターズ初出場でアジア人初のローアマチュアを獲得。プロ2年目の2014年にPGAツアーに主戦場を移し、期待を一身に背負ってきた。メジャータイトル、グリーンジャケットを日本に届けた意味を問われ、「日本人は今まで『できないんじゃないか』というのがあったかもしれない。僕はそれを覆せたと思う」と胸を張った。
「今テレビを見ている子どもたちが10年後…この舞台に立って、その子たちとトップで争えることができたらすごく幸せ。そのためには僕もこれからも勝っていかないといけないので頑張りたい」。日本のゴルフ界の未来を切り開いた。(編集部・桂川洋一)