【GDO EYE】トム・ワトソン、歴史に刻まれた新たなストーリー
「全英オープン」最終日、トム・ワトソンは59歳での史上最年長メジャー優勝まで、ほんのあと僅かまで迫って見せた。「Old fogey almost did it(時代遅れがほぼやり遂げた)」。ワトソンは、この日の戦いを自らそう形容した。
ワトソンがターンベリーで見せてくれたのは、パーを拾うことの大切さ。パーオンしなくても、バンカーやグリーンサイドからアプローチを寄せていく。パーパットを沈めると、スコットランドのギャラリーは大歓声を挙げてワトソンを褒め称えた。
6度目のクラレットジャグを掲げる瞬間は目の前まで来ていたが、それはするりとすり抜けた。最終ホールをボギーとし、通算2アンダーで並んだシンクと共に4ホールのプレーオフに臨んだワトソン。1977年のニクラウスとの死闘が「真昼の決闘」なら、2009年は「黄昏の決闘」か。だが、59歳にして強風の中72ホールを戦い抜いたワトソンには、夕闇迫り、気温も下がり始めたリンクスで、23歳年下のシンクに張り合う余力は残されていなかった。
プレーオフ1ホール目でボギー、2ホール目はパーセーブする気力を見せたが、続く3ホール目の力ないティショットはあわやロストボール寸前の深いラフへ。このホールをダブルボギーとしたワトソンの勝利は絶望的となり、歴史的瞬間を見届けようと2人を追い続けたギャラリーや関係者の落胆には、海からの冷たい風が一層の拍車を掛けた。
しかし、敗北が決定的なワトソンが18番グリーンへ戻ってくると、周りをぐるりと取り囲んだギャラリースタンドの人々が総立ちとなり、温かい拍手と歓声で疲れ切った老兵を出迎える。それは、これまでの寒さや疲れも吹き飛ぶような、心温まる瞬間だった。
「とても失望している」と、ワトソンはこの結末に落胆を隠さない。「この試合で自分がいつどのクラブで打ったかなんて、2度と思い出さないぞ」。そう言って笑ったワトソンだが、この日、全英の歴史に新たに刻まれた1ページは、皆が語り継ぐにふさわしい珠玉のストーリーだった。(編集部:今岡涼太)