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「世界最古の理髪店」Kuala Lumpur, Malaysia

2018/03/13 15:58
クアラルンプールの中心街

「髪を切る職業はいつ生まれたんだろう?」なんて考えたこともなかったけど、クアラルンプール(マレーシア)で泊まった宿に“世界最古の理髪店”と書かれた案内が置かれていた。“ギネス認定 当ホテル内にあり”なのだという。

(これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である)

思えば、はじめて海外で髪を切ったのは一人旅で訪れた22歳のパリだった。街角の飾り気のない美容院。店のマダムは英語をまったく理解せず、もちろんこっちもフランス語なんてこれっぽっちもわからなかった。でも、少し切るとすぐ「どう?」と確認してくれる優しさと、パリで髪を切ったという事実だけで心がはずんだ記憶がある。散髪は、その土地の人や文化を知ることができる体を張ったコミュニケーションだ。それに世界最古と言われたら放ってはおけない。

店の名は“TRUEFITT & HILL”といい、ロンドン本店は1805年に創業。日本には同ブランドのコロンやシェービンググッズを扱っている店舗はあるが、理髪店はない。料金表はこんな感じだ。

・ヘアカットとヘッドマッサージ 155リンギット(約4650円)
・ヘアカットと髭剃り 170リンギット(約5100円)
・フェイスマスクと髭剃り 270リンギット(約8100円)
・髭剃りと髭のシェイプ 90リンギット(約2700円)

熱い蒸しタオルと、カミソリで丁寧に髭を剃ってもらうあの爽快感を想像した。かるく髪も切ってもらおうかな。さっそく電話をして予約を取った。

マレーシアにある”世界最古の理髪店”の支店入り口

出迎えてくれたのは、白いワイシャツにストライプのネクタイを締め、黒ベストを着込んだ青い瞳の理髪師だった。整えられた立派な髭を顔全体にたくわえている。聞けばシリアから5年前に逃れてきたという。「1、2年で戻れると思ったけど、まだ戦争が終わらないんだ」という身の上話は、空想を地中海沿いの乾いた土地へといざなった。

髪を切り、シャンプーをするというので流しに仰向けに頭を乗せると、「ウォーム(温)とコールド(冷)のどっちがいい?」と聞いてきた。一瞬なんのことか分からなかったが、どうやら水温のことらしい。「誰かコールドを選ぶヤツがいるのか?」と聞くと、「俺も信じられない」と笑っていたが、やはりここは赤道に近い熱帯なのだ。

次は、心待ちにしていた髭剃りだ。髭のシェイプを伝えると、目の上にタオルを載せて理髪師は仕事にかかった。柑橘系の匂いのするジェルを頬や顎に塗り込んで、ジョリ、ジョリと一枚刃のカミソリで剃っていく。熱い蒸しタオルはなかったけど、もみ上げから顎にかけてのラインを細くシャープにしてもらうと、後日、友人に「細いね」と気づかれて嬉しかった。まあ、世界最古といっても、やることは他とそんなに変わらない。

高級ブティックが建ち並ぶブキビンタン地区

髪は自分的に前例のない9:1くらいのところできっちりと分けられた。いかにも理髪店らしい厳格なセットの仕方だった。ちょっぴり違和感を抱きながら町に出たが、注意して見てみると同じような髪型をした若者が多いことに気がついた。マレーシア人たちに、かつてない親近感を覚えたクアラルンプールの午後だった。(GDO編集部/今岡涼太)

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