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アウトオブバウンズな世界紀行

「忘れられない目」Kolkata, India

2018/03/08 07:46

これは取材で世界を旅するゴルフ記者の道中記である。

インドに行くのは5年ぶり2度目だが、コルカタは初めてだった。昨年末にインドツアーの取材で訪れた。そのイメージは、人が多くて、汚くて、貧しくて…“最もインドらしい場所”というものだった。数日が過ぎ、意外に普通だなと少し拍子抜けしていた頃の話だ。

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ふと、カーリー寺院に行ってみようと思いついた。そこは女神カーリーを祭るヒンズー教の寺院で、毎朝生きたヤギの首を斬り落として、いけにえにしているという。地図で調べてみると宿からは徒歩20~30分の距離だった。

道ばたには野菜やくだものを売るおばさん、解体された豚をつるす精肉屋の青年、歩道の壁に鏡を置いただけの簡素な理髪師ら、多くの商売人がいた。ふとんや衣類を売る商店が立ち並ぶ一角で、どちらに行けばよいのかわからなくなった。近くにいた若者に「カーリーテンプル?」とたずねると、「こっちだ」と言って、建物と建物の間にある薄暗い、地元住人しか通らないような狭い道を教えてくれた。

この道を行ったら、奧で盗賊たちが待ち伏せしているんじゃないか?という不安にかられて躊躇した。いったんは彼らを無視して、表通りを違う方向に行ってみたが、どうも違う。しかたない。“行けばわかるさ”とアントニオ猪木の言葉をつぶやき、その路地へと入っていった。

玄関先に干してある洗濯物をかいくぐり、水たまりを避けながら数分進むと、路地を抜けた向こうに一本の橋が見えてきた。その先にはまばゆい光がきらめいている。ビンゴ!真っ当な近道だった。若者たちよ、疑ってごめん…。

カーリー寺院の門前まで来ると、ガイドとおぼしき男が近寄ってきた。「ここから先は靴を履いて入れないからそこに預けろ。料金は2ルピー(約4円)だ。よし、そうしたらこっちへ来い」。境内の中には長い行列ができていた。男は「VIPアクセスだとカーリーを拝めるところまで直接行ける。100ルピー(約200円)だ」と持ちかけてきた。自分がVIPなのか、カモなのか分からなかったけど、長い行列を200円でスキップできるなら…とその誘いに乗った。

男は100ルピー札を受け取ると、「ついてこい」と腕をつかみ、肌と肌が密着するほどの人の群れをずんずんとかき分けて進んでいった。「財布と携帯電話に注意しろ」と、男は何度も振り返った。建物脇にある階段を上って狭い戸口にたどり着くと、「この先にあるから、歩いていって、見たらすぐに戻ってこい。写真はだめだ。見るだけだ」と念を押した。そして、「行け、行け」と背中を押した。

そこは、人がぎゅうぎゅうに詰め込まれた渡り廊下のような通路だった。少し進んだ右側がひらけていて、皆がのぞき込んでいる。その下の一段低くなった空間に群衆がうごめいていた。通路の左側にある手すりの台に立って見下ろすと、人々の頭越しにオレンジ色の肌が見えた。左右2つと縦に1つ、黒く鮮明に縁取られた3つの目をもつ女神カーリーの顔だった。

しばし、吸い込まれるようにその目を見ていた。何がこれほど人々を熱狂させるのだろうか?周囲の熱とは裏腹に、冷めた感覚が強まっていたのだが――。

ふと背後を振り返ってゾッとした。いままで気がつかなかったけど、通路を挟んでカーリーと正対するその場所にも無数の参拝者がいて、訴えるような、陶酔した無数の目がこちらを凝視していたのだ!

それら情熱の宿った幾百の目をみた瞬間に世界は魔法をかけられたように変わってしまった。彼らのカーリーに対する真剣な思いは疑いようもなく本物だった。さっきまで、どこか玩具のように感じていた女神カーリーの姿が、一瞬で血の通った生き生きとした存在になっていた。(GDO編集部/今岡涼太)



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