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2018年 全英オープン
期間:07/19〜07/22 場所:カーヌスティ(スコットランド)

三田村昌鳳×宮本卓 ゴルフ昔ばなし

1999年「カーヌスティの悲劇」を振り返る/ゴルフ昔ばなし

2018年のメジャー第3戦「全英オープン」は、いよいよ19日(木)に開幕します。今年の舞台はスコットランド東部のカーヌスティ。2007年以来11年ぶりの開催です。当地で繰り広げられた1999年大会の“カーヌスティの悲劇”は、150年以上の歴史を持つ全英史の中でも欠くことのできないシーン。ゴルフライターの三田村昌鳳氏とゴルフ写真家・宮本卓氏の対談連載では今回、その主人公となったジャン・バンデベルデ(フランス)と、悲劇の記憶を紐解きます。

■ 3打のリードを最終ホールで失ったバンデベルデ

―1999年大会、フランスのバンデベルデは2年ぶりに出場したメジャー大会で優勝争いを引っ張りました。2日目に「68」をマークして単独首位に浮上。勢いは持続し、3日目を終えて2位に5打差をつけました。最終日も17番終了時点で後続に3打差。ところが、最終18番で3打目をグリーン手前のクリーク(通称バリーバーン)に入れてトリプルボギーとします。リードを失い、ポール・ローリー(スコットランド)、ジャスティン・レナードとのプレーオフに突入。結局、ローリーにメジャー初優勝をさらわれました。

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宮本 あのプレーオフに入る前の雰囲気は今でも忘れられない。バンデベルデ本人はもちろんそうだったと思うが、周りも「一体、今何が起こっているのだ…」という空気だった。あの年のカーヌスティも本当に難しく、3日目を終えたところでバンデベルデだけが通算イーブンパー。他の選手が短いクラブで刻むところで1Wを握り、2日目、3日目とすごいパーを拾いまくっていた。ラフに入れても、出して、グリーンに乗せて1パットばかり。最終日も17番までそういうゴルフをしていたよ。18番も1Wで大きく右へ曲げた。でもダブルボギーでも優勝だったから、誰も彼の勝利を疑わなかった。

宮本 1打目は右サイドの17番の方へ飛んで行った。落ちたところがまた、たまたま良いライだったのだ。後悔するなら2打目だろう。グリーンを狙った長いショットは右サイドの観客席に当たって戻り、右サイドの深いラフにはまった。本当にあり得ないような跳ね方で…。そこから3打目をバリーバーンに入れ、最悪の事態になった。
三田村 2打目のライは決して悪くはない、悩ましいところで「グリーンをとらえるのが100%無理なわけではない、70%はうまくいく確率がある」と踏んだのじゃないだろうか。
宮本 カーヌスティの18番は一般営業の時はパー5。全英ではパー4でプレーさせる。3打差あったから、本来なら3オン3パットのダブルボギーでも勝てた。でも彼にはそう考える余裕がなかったのかもしれない。あるいは“パー4”に則る潔さもあったのかもしれない。

■ バリーバーンでの混乱

―深いラフからバリーバーンに入れてしまったバンデベルデ。一度はウォーターショットを試みようとしますが、結局後ろに下がって1ペナルティを科し、5打目でグリーン右手前のバンカーに。6オン1パットのトリプルボギーで、三つどもえのプレーオフになります。

宮本 珍しいケースで、18番に入った時点では誰もがバンデベルデが勝つと思っていたから、ギャラリーをもうフェアウェイに、最終組の後ろを歩くのを許可していたんだ。だから空気も異様で…。クリークに入れて、刻一刻と状況が悪化していった。バンデベルデは何を思ったか、靴を脱いでバリーバーンに入り、そのまま打とうとし始めた(編集部注:当時のテレビ中継で解説を務めた青木功は「あきらめなさい!やめなさい!」と放送席から呼びかけるように話している…)。カメラマンもみんな興奮状態。当時は今のようなデジタルではなく、フィルムだったからタイミングを見て、その都度、交換しなくちゃいけなかった。みんなが慌てていて、押し合いへし合い…川に落ちたカメラマンもいた。でもね、バンデベルデは川の中で一度アドレスを取ろうとして、小さく笑ったんだよね。

宮本 結局ウォーターショットはあきらめて、後ろに下がってドロップした。それがまた深いラフ、ものすごく悪いライになってしまった。本当ならもっと後ろに下がって、もっと良いライを探してドロップするのも手だった。ところが、全英オープン用に鉄の柵が設けられていたから下がれない。お客さんが踏みしめた後の、平らな芝の上を選んでも良かったが…。でも、最後に彼はトリプルボギーパットを決めて、プレーオフに持ち込んだ。そのときのガッツポーズは忘れられないな。勝ったローリーは地元スコットランド・アバディーンの出身だったが、会場中がバンデベルデを応援していた。

■ バンデベルデの自宅を訪ねて

―この1ホールで一躍脚光を浴びたバンデベルデでしたが、欧州ツアーでは通算2勝。同大会を迎える前までは、1993年に1勝を挙げただけ。メジャーでは“無名”と言える選手でした。

宮本 カーヌスティの悲劇の数年前、フランス・リヨン近くの彼の家に取材で行ったことがあった。ずいぶん男前なプロがいるもんだと思ったが、彼は日本に興味があったんだ。禅や武道の本をよく読んでいた。だから、全英で活躍した時、僕は鼻が高くてね(笑)。
三田村 フランスのゴルフの歴史は長い。貴族は帝王学を学ぶために、昔はイングランドやスコットランドに出向いた。キャディの語源はフランス語の“cadet”、宮廷につかえる人という意味から派生し、荷物を運ぶ人というところにあるという。R&Aにもフランス人は多い。今年は「ライダーカップ」がフランスで行われる。
宮本 最初は“カッコつけ”かと思ったんだけど、いつも真剣そのもの。あの負け方を受けた潔さもサムライのようだった。
三田村 バンデベルデは敗れた後、こう言った。「まるでおとぎ話のようだよ。自分がどうやって冷静さを保ったのかすら覚えていない。でも100年経ったら、誰もが僕のことなんて忘れている。これはたかがゴルフ、たかがゲームじゃないか。人生にはもっと辛いことがいっぱいあるんだから」。まったく覚えてないけど冷静だった、というのはすごい感情だと思う。様々な感情が入り混じって、何かに操られているというか…。

■ カーヌスティの難度

―いよいよ始まるカーヌスティでの戦い。今年は2007年以来11年ぶりに当地が舞台になります。前回の優勝者はパドレイグ・ハリントン。日本勢は6人が出場し、予選通過は谷口徹だけでした(60位タイ)。

宮本 全英はいくつのコースをローテーションする中で、多くのリンクスが1番から9番までが“一直線”に近い。10番から18番は、逆方向に真っすぐ戻ってくる。だからホールを進める中で、風向きが一定であることが多い。ただ、中でも難しいといわれるミュアフィールドとカーヌスティは18ホールのレイアウトが円のようになっていて、毎ホール風向きが違うことになる。さらにカーヌスティはそこにOBも、そしてクリークがある。だからこそ名勝負が生まれるし、ここで勝つことが真のチャンピオンだというところがある。
三田村 全英がメジャーの中でも一番、勝者と敗者との間を分ける気がするな…残酷だよ。アメリカのコースは、パワーイズナンバーワンというか“完全調和”と言えるところが多い。でも、英国のリンクスはそうはいかない。「何があってもそれが人生だ」と教えられる。自然の前では、誰もカッコよく守れない。泥臭く、必死で。全英ってそういう戦い方だと思う。
宮本 「カーヌスティの悲劇」では、勝ったローリーのことは多くの人が覚えていない。でもバンデベルデのことは覚えている。彼が「僕のことなんか忘れる」と言っても、そうならない。これが、スポーツなのだよね。

三田村昌鳳 SHOHO MITAMURA
1949年、神奈川県生まれ。70年代から世界のプロゴルフを取材し、週刊アサヒゴルフの副編集長を経て、77年にスポーツ編集プロダクション・S&Aプランニングを設立。80年には高校時代の同級生だったノンフィクション作家・山際淳司氏と文藝春秋のスポーツ総合誌「Sports Graphic Number」の創刊に携わる。95年に米スポーツライター・ホールオブフェイム、96年第1回ジョニーウォーカー・ゴルフジャーナリスト賞優秀記事賞受賞。主な著者に「タイガー・ウッズ 伝説の序章」(翻訳)、「伝説創生 タイガー・ウッズ神童の旅立ち」など。日本ゴルフ協会(JGA)のオフィシャルライターなども務める傍ら、逗子・法勝寺の住職も務めている。通称はミタさん。

宮本卓 TAKU MIYAMOTO
1957年、和歌山県生まれ。神奈川大学を経てアサヒゴルフ写真部入社。84年に独立し、フリーのゴルフカメラマンになる。87年より海外に活動の拠点を移し、メジャー大会取材だけでも100試合を数える。世界のゴルフ場の撮影にも力を入れており、2002年からPebble Beach Golf Links、2010年よりRiviera Country Club、2013年より我孫子ゴルフ倶楽部でそれぞれライセンス・フォトグラファーを務める。また、写真集に「美しきゴルフコースへの旅」「Dream of Riviera」、作家・伊集院静氏との共著で「夢のゴルフコースへ」シリーズ(小学館文庫)などがある。全米ゴルフ記者協会会員、世界ゴルフ殿堂選考委員。通称はタクさん。
「旅する写心」

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