「全英女子」で結実した準備と経験 快挙の“足音”は1年前から/桑木志帆インタビュー【前編】
2週前の「AIG女子オープン(全英女子)」で日本勢7人目となるメジャー制覇を遂げた桑木志帆。キャリア7試合目だった海外メジャーで初めての優勝争いを堂々と戦い抜き、世界最高峰のトーナメントで頂点に立った。一躍“時の人”となった23歳が、国内ツアーに凱旋出場する「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」(14日~/長野・軽井沢72北C)を前に単独インタビューで快挙の舞台裏を明かした。<全2回の前編。聞き手・構成/亀山泰宏、中村文香>
緊張、無言のキャディに“無茶ぶり”
ロイヤルリザム&セントアンズGCの17番グリーンから18番ティに向かう途中、桑木はバッグを担ぐ小田亨氏に笑顔で声をかけた。「あんまり黙っていると緊張しちゃうので、なんか面白いこと言ってください」。単独首位で迎えるメジャーの72ホール目。経験豊富なベテランキャディの口数がめっきり減ってしまうのも仕方ない。肝心の“ボス”は、極限のプレッシャーがかかりそうな状況下でジョークを挟むだけの落ち着きがあった。
「緊張しいです、どちらかと言えば」という自己分析とは裏腹に、最終日3打差2位でのスタートからイヤな緊張感が全くなかったと振り返る。それこそ、本人も気付かなかった1番ティイングエリアでのあくびが中継カメラにしっかりと映っていたくらいに…。
理想的なメンタルで臨むことができた要因として、準備と経験を真っ先に挙げる。直前の国内ツアーをスキップし、早めにイングランドへ飛んで調整を重ねた。今季4試合を戦った海外メジャーで貫いたルーティンでもあった。
「去年のKPMG(全米女子プロ)は早めに入らなくて、(国内から連戦で)その週に入って準備不足だなと思った。コーチと『何が足りなかったと思う?』と話した時に、自分の中で一番に出たのが『準備』だったんです。ことしはそれがないように、全部早めに入っていました」
早々に固まったコース攻略イメージ
前週末のうちにメジャーの会場に入る流れは全英女子を除く3試合と同じ。その中にあって、過去の大会と比較してもコースの情報収集など事前に費やした時間への手応えが「一番、ありましたね」とうなずく。
早朝、夕方など練習ラウンドを回る時間帯に幅を持たせることで、風や地面の硬さの変化による転がりへの影響を細かくチェック。174個ものポットバンカーを避けるリスクマネジメントに加え、“点”ではなく“線”で距離感を合わせていく攻略法を固めていくことができた。「練習ラウンドも結構手前から転がしたりして、『こんなに足を使えるんだ』っていうイメージができていた。(開幕前から)わりとイメージ良く回れていました」
決勝ラウンド2日間を2サム同組で回ったユ・ヘラン(韓国)は、徹底して刻みながら何度もバンカーにつかまってトラブルを招いた。桑木がティショットをバンカーに入れたのは、1オンチャレンジでバーディにつなげた最終日の13番パー4を含めても、4日間で3回だけ。長い番手のセカンドが残って転がり過ぎるシーンもあった韓国のエースとは対照的に、キャリーとランの計算がピタリとハマるショットでチャンスを量産した。
プラン通りに戦えていたからこそ、勝負どころでアグレッシブになることもできる。最終日になって初めてアゲンストの風が弱くなった11番は、それまで左のポットバンカーを警戒して3Wを握っていたパー5。「小田さんが『ドライバーだったら、次が(2オンを)狙えるかも』と言っていた。刻むとしたらUTになってしまうし、だったらドライバーで行こう、と」。桑木自身は当たりが薄かった2打目を悔やもうと、結果的に花道手前からのアプローチがオーバーしてのパーだろうと、右サイドのバンカーギリギリまで飛ばした一打はサンデーバックナインのプレーを勢いづけた。
変わらぬリズム「自分に期待しすぎず」
しびれる優勝争いでもスピーディーなプレーペースは一貫していた。エスター・ヘンゼライト(ドイツ)とのプレーオフ1ホール目、右サイドの深いブッシュからのレイアップも、外せば“ほぼ負け”となる1m強のパーパットも、それほど時間をかけなかった。
「(自分に)期待しすぎても固まっちゃうので。あんまり期待しすぎないことだったり…。もう、うまくいくか、うまくいかないかの二択じゃないですか。パターとか、そんなに考えても仕方ないなって思っています」
初出場を含むメジャー3試合を戦った昨季は違った。2024年に国内ツアー3勝とブレークし、米女子ツアー参戦を視野に入れたチャレンジで「やる気が空回りしていた感じはありました」。初日150位と出遅れた「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」では2日目の前半で4つ伸ばすチャージをかけたと思いきや、同伴競技者のスローペースもあって組全体に警告が出た後半に停滞。大まくりでの予選通過を逃した。
「あんまり周りを気にしなくなりましたね。自分の世界に入るじゃないですけど、もう自分のこと(リズムやルーティン)だけ。うまく打てたパッティングが外れると、『自分(の打ち方)が悪かったのかな…』とか思ってしまいがち。リズムだけを考えておけば、『いいパッティングができて、入らなかったら仕方ないかな』って思えました」
メジャーで味わった苦い経験を糧に小気味いいパッティングのスタイル、リズムが確立されていったのは、5月「Sky RKBレディスクラシック」でシーズン初勝利を挙げる直前のタイミングだった。何度も「信じられない」と繰り返した今回の快挙。振り返ってみれば“足音”は静かに、それでいてはっきりと聞こえていた。
インタビュー後編では、イングランドでも話題を呼んだド派手ウェアにまつわる裏話や来季から本格参戦する米ツアーでの目標を語る。