2026年 AIG女子オープン(全英女子)

「いやぁ別に…」からメジャー覇者へ 桑木志帆の世界を変えた岩本砂織コーチが語る10年の軌跡

2026年 AIG女子オープン(全英女子) 4日目 桑木志帆
歴史的な歓喜の瞬間

歓喜の輪の中に、恩師の姿はなかった。桑木志帆がメジャー初制覇を遂げた「AIG女子オープン(全英女子)」。岩本砂織コーチは最終日の前日、イングランドのロイヤルリザム&セントアンズをひと足先に後にしていた。日本ゴルフ協会(JGA)のナショナルチームテクニカルコーチとして、「全米女子アマチュア選手権」が行われた米テネシー州へ。第3ラウンド当日の早朝、まだ眠っているはずの桑木を起こさないよう宿舎を出た直後、スマートフォンに本人から1通のメッセージが届いた。「もう寂しいです」――。

桑木が偉業に至る支えとして、真っ先に挙げたのが、岩本コーチとの出会いだった。帰国後の会見では「自分の世界が変わる」とまで言った。

2026年 AIG女子オープン(全英女子) 事前 桑木志帆
最後まで見届けられなかったが、チーム桑木として切磋琢磨してきた

師弟関係は10年前、桑木がまだ中学生だった頃にさかのぼる。

出会いはJGAの育成プログラムの一環として中国地区で行われた強化合宿。同じ岡山県出身で、渋野日向子ら実績のある先輩たちの陰にこっそり隠れるようにして話を聞いている少女がいた。それが桑木だった。

「プロを目指しているの?」。岩本コーチがそう尋ねると、返ってきた答えは「いやぁ別に…」。周りは将来、トッププレーヤーになることを夢見る学生ばかり。桑木のあまりに自然体な返答に驚いたという。

2026年 岩本砂織
岩本砂織コーチは全米女子アマチュア選手権同行を終えてインタビューに応じた

それでも、「プレーは上手だった」と光るものを感じた。そこから合宿などで年に4回ほど顔を合わせ、折に触れてアドバイスを送る関係が続く。正式にコーチ契約を結んだのは2025年。勝利には届かないシーズンだったが、この一年での取り組みが翌年の偉業達成につながっていった。

「私はパターが下手なんです」。これが桑木の口癖だった。岩本コーチはまず、パッティングを客観的に分析した。「データでみると、例えば3m以内が確かに入っていない。でも彼女はショットがいいので、チャンスにつくことが多い。それが全部入っていたら大変なスコアになる(笑)。決して下手なわけではなかった」。ショットメーカーの宿命ともいえるスタッツ構成。そこが強化すべきポイントだという桑木自身の感覚は的を射ていた。

2026年 AIG女子オープン(全英女子) 4日目 桑木志帆
「私はパターが下手なんです」が口癖だった

重視したのは、「崩れていることに本人も気づいていなかった」というパッティング時の“間(ま)”を整えること。ストロークのテンポが速めな桑木に対し、あえてゆっくりとしたテンポでカウントを取り、それに合わせてストロークさせる。狙いは、“違和感”を覚えさせることだった。あえて間を崩すことで、試合中にリズムが乱れたとき、自分自身でその変化に気がつけるようにする。目隠しをしてストロークする練習なども取り入れながら、細かなメニューを積み重ねていった。

全英女子でのプレーオフ1ホール目。相手のエスター・ヘンゼライト(ドイツ)がバーディチャンスにつけたのを横目に、1mに寄せた会心の第3打はもちろんのこと、外れれば敗れる重圧のパーパットをねじ込む技術力と胆力が勝利を手繰り寄せた。それは、師弟にとって想定内だった。今シーズンのデータで、3フィート(約91cm)のパッティング成功率が100%だったからだ。練習で培った感覚に加え、取り組んできた全ショットのデータ分析も、大一番で背中を押した。

2026年 岩本砂織
全ショットのデータをもとに強化ポイントを導き出す

1年前、契約を結ぶときに岩本コーチが伝えた言葉がある。「教え子が、『全米女子オープン』で優勝することが私の夢なんだよね」。普段あまり大きな目標を口にしないタイプの桑木が、凱旋帰国後にみずから口にした次の目標が全米女子オープン制覇だった。

岩本コーチは、メジャーチャンピオンになった教え子の現在地を「めちゃくちゃ伸びしろがある」とみる。今後は、アプローチの強化を手始めにさらなるレベルアップを図っていく方針。夢の続きへ、2人の歩みはこれからも続いていく。(編集部・中村文香)

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