メジャー史に残る下剋上 世界304位が起こした“奇跡”の勝利
◇メジャー第1戦◇AIG女子オープン(全英女子オープン) 最終日(23日)◇ロイヤルトゥルーンGC(スコットランド)◇6649yd(パー71)
6つの国際的なアマチュアタイトルを引っ提げてプロ転向した2014年、ソフィア・ポポフ(ドイツ)は原因不明の体調不良に見舞われた。「何か分からなかった。でも10種類以上の症状が出ていた」。発熱、筋肉痛、関節の痛み。病院を回っても明確な診断結果は出ない。「あまりに慢性化していて、ずっと疲労感に悩まされていた。原因が分かれば楽になれると思っていた」
下部ツアーを主戦場にしながらプロを続けて3年目の2016年、ある病院で「ライム病」と言われた。マダニが感染源で欧米では年間で数万人が感染する病だった。11kg、体重が落ち、当時プロキャリアを諦めようとしていた。
「健康のため、栄養のため、体を鍛えようと思った。もう一度やり直そう。できるだけ症状が出ないように自分の力をすべて注いできた」。思い描くプロキャリアを歩めずくすぶり続けた過去にも目を背けない。自らの運命を受け入れ強くなると誓った日があるから、些細な幸せを感じることができた。
「今年ミニツアーで優勝したのがプロとしての初めての優勝。母とシャンパンを2杯飲んで祝った。母はすごく興奮していたわ。(新型コロナウイルスの感染拡大の影響で)ツアーがない期間でも賞金を稼げるようにしてくれた主催者には感謝している」
新型コロナウイルス感染拡大で中断したツアーの再開初戦「ドライブオン選手権」は親友のアン・バンダム(オランダ)のキャディを務め、勉強のつもりですべてを吸収した。「彼女の賢いプレースタイルが勉強になった」とメジャーの出場権を手にしたのはその翌週。「マラソンクラシック」でトップ10入りし、スコットランド行きの切符を手に入れた。
単独首位から出て5バーディ、2ボギーの「68」でプレー。「きょうはすごく落ち着いてプレーすることができた。17番(パー3)のティショットがグリーンに乗った後に緊張感が出てきたけど、深呼吸した。グリーンにちゃんと乗せられたんだから、もう私の週なんだって思えた」。キャリアで上回る追手が難関リンクスで苦戦しても、最後まで冷静に回った。
下部ツアーでもがく仲間に向けたメッセージを送った。「私にはいろんなツアーに多くの友人がいる。(今週を見て)彼女たちも知ったと思う。ゴルフは常にエリート選手が勝つわけじゃない。私にだってできたんだもん」。最も弱くて、強いメジャーチャンピオン。「全英」の歴史に名を刻む下剋上を起こした27歳には、そんな称号がふさわしかった。