ツアープレーヤーたちの不屈の闘志<杉原輝雄>
1998年に前立腺がんが発覚。しかし「切れば試合に出られなくなる」と、現役続行を決意。ホルモン注射などの投与治療を続けてきたが、いよいよリンパへの転移が見つかったのが、昨年3月。幸い、それから悪化はしていないというが、現在は放射線などの治療に専念。それが済めばまた「試合に出るため、周囲に迷惑がかからないよう準備する」という。再び、トレーニングを開始するというのだから恐れ入る。
ほんとうに、この人は病気が怖くないのだろうか。
「いや、怖いよ」と、口では言ってみせながら、言ったそばからへらへらと笑い、「だから、聞きたいことがあったらなんでも聞いといてや。明日、電話してくれてももう出られへんかもしれんなんてこともあるかもしれへん。今のうちやで」と、いたずらっぽい視線を向けるのだ。
71歳を迎えてなお枯れないユーモア。尽きないゴルフへの探求心。
身に起きた不幸も不幸ととらえず、むしろ「成長するための糧」として、プラスにしてしまうしたたかさがある。
「病気のおかげで新しい出会いがあった」とドンはいう。
「新幹線の切符が自分で買えるようになった」などと、まるで子供のような新鮮さで物事を柔軟に受け入れ、存分に人生を楽しんでいるようにみえる。
講演に呼ばれては、ちょっぴり毒舌混じりの話芸で笑わせ、トーナメント会場では、スタートティで気さくにギャラリーに話しかけ、盛り上げる。そんなドンだから、むっつりと愛想もなくプレーする若手には、やっぱりひとこと言わなければ気が済まないようだ。
「石川遼くんがあれだけ人前でしっかりしゃべれるのに・・・」と、スーパー17歳を引き合いに出し、「遼くんにゴルフの腕は負けてもしゃべりで負けるな、とほかのプロにも言うてやるつもりです」。というのだ。
今年も、地元を中心に、昔ながらのゆかりの人たちが多く待つトーナメントを選びながら、数試合に出場する予定である。「“杉原が出てるから、ちょっと見に行こか”と、お客さんにそう言ってもらえたら。僕も、微力ながらツアー活性化の一助になれば」。自ら身をもって示すという心意気。
いや、これ以上のお手本はないと思うと、つくづくこの人が、毎年ツアーで元気な姿を見せてくれること、それ自体がとてつもなく尊いことに思えてくる。