ツアープレーヤーたちの免疫力<中嶋常幸>
巧みな話術は50歳も半ばを迎えてますます磨かれていくようだ。ひとたびマイクを握れば、ぐいぐいと聴衆を引き込んでいく。講演会やテレビやラジオで活躍する姿はもはやプロゴルファーの域を超え、本人も「俺は喋るために生まれてきたから」とまで豪語するほど自信たっぷり。
しかし、そんな中嶋常幸も「中学生のころは女性恐怖症で、女の子に話しかけることすら出来なかった」というから驚いた。あの中嶋にもウブな“ハニカミ時代”があったとは。にわかに信じがたい話だが、本人が打ち明けたのだから間違いない。
「このままではいかん」と一念発起したそうだが、その“克服法”がまたケッサクだ。まずはテレビの前にちんまりと座り、報道番組にチャンネルを合わせる。画面の中の女性アナウンサーとデート中だと想定し、その目をじっと見つめる。そして、ニュースを読むのに合わせ、あたかも彼女と会話するように「うんうん」とか「そうか~」などと、相づちを打つことで“免疫力”をつけていったというから、なんとも微笑ましい。
その甲斐あって、約1年でどうにか女性の目を見て話しかけられるようになったというが、いまやそんな片鱗はみじんもない。
先月のゴルフフェアで行われたトークショーでも絶“口”調だった。
「今年から、ライバルを片山晋呉から石川遼に変えなくちゃ。54歳、まだまだ進化しなくちゃ!」と、若手にまっこう勝負を挑む姿勢をアピール。「そのためにもいろんな工夫をしている」という中嶋。「まずは、頭を変えることからですね」。と、たちまち観衆の視線が一点に集中した?!
確かに、ちかごろとみに寂しくなってきたその頭髪……。「でも、えぇ、まさか?!」というビミョ~な空気を察して当意即妙。「いやいやいやいや…」と、苦笑いで首を振る。「外見を変えて、増毛するとかじゃないですよ!」と、自虐ギャグでドっと笑いを誘ってからスバリ本題に。「そうじゃなくて中身。頭の中身を変えてよりポジティブに、より前向きに。まだ54歳、まだやれる。まだまだ出来る。そういう気持ちでやるってこと……!」。
「今年、ゴルフ界で一番の注目は?」と、問われて大まじめに答える。
「中嶋が、石川遼を破れるかだね」。きっぱりと、言い切ったそばから笑み崩れ、「遼くんは人気者だけどさ。中年のギャラリーはきっと、みんな僕の味方をしてくれるでしょう」。そう言って「ガハハハッ」と、高笑い。「もちろん、応援してるよっ」と、すかさず飛んだ声援。それに後押しされるように「熱狂的な中高年ファンを引き連れて、17歳の遼くんに競り勝つ。最後にベテランの味をガツンと見せたい」と、力強く締めた中嶋を最後は大きな拍手が包んだ。
コースで見せる勝負師の表情からは想像もつかない軽妙な話っぷりに、抱腹絶倒のトークショーが終わるころにはみなすっかりそのとりこに。いまの中嶋は、口を開くたびに新たなファン層を開拓していくようだが、それもこれも少年時代のあの秘密の特訓があったからこそ・・・!?
今年も、4月のマスターズトーナメントでテレビ解説をつとめる。今年は目下ライバルの石川が参戦するとあって「本番がますます楽しみ」という中嶋の解説を、毎年楽しみにしているというファンもまた多かろう。ジャパンゴルフツアー第2戦のつるやオープンから本格始動する予定だ。かのオーガスタで大いに刺激を受けて帰国した中嶋が、今年もまたどんなパフォーマンスを見せてくれるか。