ツアープレーヤーたちの武勇伝<平塚哲二>
平塚哲二がツアー通算4勝目をあげた2週前の三菱ダイヤモンドカップ。優勝の瞬間に号泣したのは、その週バッグを担いだキャディの伊能恵子さんだった。伊能さんにとって“初優勝”というわけではない。やはり大洗ゴルフ倶楽部で行われた2004年大会でも、このコンビで勝利を飾っている。それでも伊能さんが泣かずにはいられなかったのはワケがある。
前日3日目のことだった。ラウンド中に伊能さんは上手くコミュニケーションが取れず、とうとう平塚を怒らせてしまった。「お前と喋ってるとイライラする」と言って平塚は、その後いっさい口をきいてくれなくなったのだ。
その日5月25日は偶然にも伊能さんの誕生日だったが、「最悪のバースデー(苦笑)」。泣きそうな気持ちで、18ホールを歩いたという。
すっかり落ち込んで迎えた夕食も、ほとんど進まなかった。しかし、矢野東や久保谷健一などを誘い合わせて「伊能ちゃんの誕生祝いをしよう」と言い出したのは、ほかでもない平塚だった。
ツアーきっての酒豪は「実はその前の日も“明日は伊能ちゃんの誕生日やし飲んどこか~”って・・・」と、本人も笑って打ち明けるほど。何かしら理由をつけて開く“酒宴”はビールから始まって、シャンパン、ワイン、日本酒、焼酎・・・。子供のころ、亡き父・央(ひろし)さんも手を焼いたほどのガキ大将は、杯を進めるごとにやんちゃに戻っていく。久保谷の宿泊先に“乱入”して、スーツケースの中にお菓子をばら撒いたり、飲めや歌えの大騒ぎ。
そんな“誕生会”もピークを迎えたころだった。何気なく伊能さんに近寄ってきた平塚が、どさくさに紛れてボソリと言ったのだ。「・・・今日はごめんね」。そして「明日は頑張るでぇ」とも。その翌日に、有言実行の優勝に一転「最高の誕生日になりました」と、伊能さんは涙ぐまずにいられなかったのだ。大親友の矢野も、「平塚さんは、男の中の男です」と絶賛するほど気風が良く、また面倒見の良い性格で、いつも仲間のムードメーカーだ。
その前週には16歳の高校1年生、石川遼くんが史上最年少優勝を飾ったばかりだった。平塚は予選落ちして、自宅のテレビでその快挙を見た。「すごい悔しくて・・・僕なんか、彼が生まれる前からゴルフやってるんですよ。そんな子に、みんな負けた」。その屈辱を、難コースで晴らした。大洗ゴルフ倶楽部を制したのは2004年大会以来、2度目。尾崎将司や中嶋常幸らさえも1度しか勝っていないコースで堂々と、“おじさん”の貫禄を発揮したのだった。